地球誕生から何十億年もの間、この星はあまりにも過酷だった。激しく波立つ海、火山の噴火、大気の絶えまない変化。生命はあらゆる困難に直面しながら絶滅と進化を繰り返した。ホモ・サピエンスの拡散に至るまで生命はしぶとく生き続けてきた。「地球の誕生」から「サピエンスの絶滅、生命の絶滅」まで全歴史を一冊に凝縮した『超圧縮 地球生物全史』(王立協会科学図書賞[royal society science book prize 2022]受賞作)は、その奇跡の物語を描き出す。生命38億年の歴史を超圧縮したサイエンス書として、西成活裕氏(東京大学教授)「とんでもないスケールの本が出た! 奇跡と感動の連続で、本当に「読み終わりたくない」と思わせる数少ない本だ。」、ジャレド・ダイアモンド(『銃・病原菌・鉄』著者)「著者は万華鏡のように変化する生命のあり方をエキサイティングに描きだす。全人類が楽しめる本だ!」など、世界の第一人者からの書評などが相次いでいる。本書の発刊を記念した著者ヘンリー・ジーへのオンラインインタビューの11回目。これまでの連載に続き、世界的科学雑誌「ネイチャー」のシニア・エディターとして最前線の科学の知を届けている著者に、地球生物史の面白さについて、本書の執筆の意図について、本書の訳者でもあるサイエンス作家竹内薫氏を聞き手に、語ってもらった。(取材、構成/竹内薫)

“何十億年も前の地球の歴史”を学んでどんな意味があるのか? “世界の知性”からの納得の回答Photo:NASA, ESA, CSA, STScI, Megan Reiter(Rice University), with image processing by Joseph DePasquale(STScI), Anton M. Koekemoer(STScI)

遠い銀河の写真

ヘンリー・ジー:さて、ここにジェームス・ウェッブ望遠鏡で撮影された一枚の写真があります。

 これは、NASAの誰が宣伝したにせよ、見事なポピュラーサイエンスの作品といえます。

 宇宙にあるこの巨大な望遠鏡は、人類がこれまでに得た最高の空を見る目であり、遠い銀河の素晴らしい写真を送り返してくれました。

 砂粒を爪と親指の間に入れて、空に向かってかざすと、その砂粒がこの銀河たちの巨大な写真を覆っているんです。

壮大なイメージとの出会い

 そんなに小さな領域に何百という銀河が詰まっている。

 それで、すなおに「すごいな」と思ったんです。ある夜、外に出て砂粒で空を見て思いました。

「すごいな。空の小さな一片に、あれだけのものが詰まってるんだ」。本当に驚かされました。

 このような壮大なイメージに出会えるのであれば、もっと科学に興味を持てるのではないかと思います。

科学の醍醐味

――私は科学オタクであると同時にカメラオタクでもあるので、画像の解像度に強く惹かれます。

 それまでぼんやりとしか写っていなかったものが、新しいカメラだと解像度が何十倍にもなって、ぼやけていた細部がくっきりと写るようになる。

 たとえば、野鳥の羽毛の一本いっぽんが解像されると、わたしはめちゃめちゃ興奮するんです。

 それと同じで、砂粒一つぶんの視野のなかに、何百もの美しい銀河が詰まっていて、それがきれいに解像されたら、そりゃあ感動しますよね。

 でも、「クールじゃない」、つまり格好良くないと決めつけて、最初からその写真を見なければ、感動も味わえないし、科学の醍醐味もわからないままになってしまう。

よくある質問

ヘンリー・ジー:科学の問題の一つは、数字で唖然とさせる傾向があることです。

「昨日何をしたのか思い出せないのに、何十億年も前のことを想像したり勉強して、どんな意味があるのか?」と質問されることがあります。

 これは私の本の中でも問題にしていることですが、何十億年、何百億年、何千億年という数字は何を意味するのか? 私たちの日常生活にどのような意味を持つのでしょうか?

 それは、「すごい!」という感動を味わうことです。

 私が本書に年表を入れた理由も同様です。

 年表には、「今」と書かれています。そして、その数センチ上には、「地球上の生命が絶滅」と書かれている。

 そうすると、人々は「スケールの大きさに感動して、ああ、これはすごい。もっと詳しく知りたい」と思うでしょう。

 そこで、この本では、時間をどのように表現するか、かなり真剣に考えなければなりませんでした。

 苦労した甲斐があり、確かに人々の心に響いたようです。

――なるほど。よくわかります。

 日本語版でも、年表は、編集の田畑さんが、日本人が数えやすい「億」という単位に変えてくれたり、漢字と数字のどちらで表記するかなど、かなり悩みましたが、原著でも相当、悩まれたこととお察しいたします。

 さて、最後に、日本語版の感想を簡単にお願いします。

ヘンリー・ジー:表紙のキラキラが良いですね!

 この発想が好きです。すごくキラキラしている。

“何十億年も前の地球の歴史”を学んでどんな意味があるのか? “世界の知性”からの納得の回答装幀:鈴木千佳子

 私はこの星たちが大好きです。素敵な表紙です。日本の本がすべてピカピカでない限り、書店で目立つことは間違いないでしょう。

――実際、かなり目立っているようです。

 おかげさまで読者からの反響も大きく、3万5000部のベストセラーになっています。多くの書店で平積みにしてくれています。もっとたくさん売れるよう、翻訳者の私も編集の田畑さんも頑張ります。今日は一時間半もぶっ続けでインタビューにお答えいただきありがとうございました。

ヘンリー・ジー:ありがとう、楽しませてもらいました!

“何十億年も前の地球の歴史”を学んでどんな意味があるのか? “世界の知性”からの納得の回答ヘンリー・ジー
「ネイチャー」シニアエディター
元カリフォルニア大学指導教授。一九六二年ロンドン生まれ。ケンブリッジ大学にて博士号取得。専門は古生物学および進化生物学。一九八七年より科学雑誌「ネイチャー」の編集に参加し、現在は生物学シニアエディター。ただし、仕事のスタイルは監督というより参加者の立場に近く、羽毛恐竜や最初期の魚類など多数の古生物学的発見に貢献している。テレビやラジオなどに専門家として登場、BBC World Science Serviceという番組も制作。このたび『超圧縮 地球生物全史』(ダイヤモンド社)を発刊した。本書の原書“A(Very)Short History of Life on Earth”は優れた科学書に贈られる、王立協会科学図書賞(royal society science book prize 2022)を受賞した。
Photo by John Gilbey

(本原稿は、ヘンリー・ジー著『超圧縮 地球生物全史』〈竹内薫訳〉への著者インタビューをまとめたものです)