一度、成功体験を味わってしまうと、それをみずから手放して新たな方向へ進みはじめるのはなかなか難しいものです。謙虚にアンラーンすることはそれほどに難しいのです。『アンラーン戦略 「過去の成功」を手放すことでありえないほどの力を引き出す』を監訳した株式会社チームボックスCEOの中竹竜二さんは、昨年12月、都内で開催した同書の読書会で、韓国の世界的グループBTSの進化のストーリーをもとに、その転換点を解説してくれました。(構成:加藤紀子 撮影:石橋雅人)

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BTSに学ぶアンラーンの3つのステップとは

 皆さんは「アンラーン」という言葉、この本を手に取る前にも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

「アンラーン」とは、これまでの学びや価値観、成功体験や獲得した栄光を思い切って手放すことです。

 ただ、残念ながらこの説明だけだと、多くの人にとってつかめるようでつかめない。抽象度の高い概念ですよね。

 そこで今回、本書の著者であるバリー・オライリー氏は、アンラーンをこうした「概念」にとどめ置かず、3つのステップからなる「行動」のサイクルとして説明してくれています。

 3つのステップとは、次の図のようなサイクルを指します。

アンラーンのサイクル図1 アンラーンのサイクル

ステップ1:脱学習(Unlearn)

 最初のステップは、「過去に役立った考え方や行動様式が今後も役立つはず」という思い込みから抜け出すことです。

 そのためには、自分がこれまで頑なに信じ続け、守り抜いてきたものが、時代遅れで陳腐化していること、むしろそれが自分自身の潜在力とパフォーマンスを制限していることを認め、そこから離れる必要があります。すごくわかりやすく言うと、「学習の断捨離」です。

 知識やスキル、さらには成功体験のようなものをたくさん獲得してきた人ほど、手放すにはかなりの勇気がいります。できれば全部抱えたまま生き抜きたいくらいでしょう。

 しかし、人間のキャパシティには限界があります。もちろん過去に学んだ中にはこの先にも使えるものがあるかもしれませんが、何かを手放さなければ新しいものを取り込むスペースは生まれないのです。

 新しいものを取り込むスペースをつくるには、まずは思い切って断捨離し、身軽になること。

 これがステップ1の「脱学習」です。

中竹竜二中竹竜二(なかたけ・りゅうじ)
株式会社チームボックス代表取締役
1973年福岡県生まれ。早稲田大学卒業、レスター大学大学院修了。三菱総合研究所を経て、早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任。自律支援型の指導法で大学選手権二連覇を果たす。2010年より日本ラグビーフットボール協会、指導者を指導する立場である初代コーチングディレクターに就任。12年より3期にわたりU20日本代表ヘッドコーチを経て、16年には日本代表ヘッドコーチ代行も兼務。14年、企業のリーダー育成トレーニングを行う株式会社チームボックス設立。18年、コーチの学びの場を創出し促進するための団体、スポーツコーチングJapanを設立、代表理事を務める。著書に『ウィニングカルチャー 勝ちぐせのある人と組織のつくり方』(ダイヤモンド社)など多数。最新作の監訳した「アンラーン戦略」がある。

ステップ2:再学習(Relearn)

 ステップ1で「脱学習」を行うと、空いたスペースに新たなデータや情報、視点を受け入れることができます。そこにはこれまでの自分にはなかった新しい学びや気づきがあるでしょう。

 また、それによって学び方そのものを変えたり、「こうすべき」と言われてきたことや教わってきたこととは全く違う新しい行動パターンを試したりする必要が出てきます。これがステップ2の「再学習」です。

「脱学習」と同じく「再学習」でも、全く新しいことに挑戦したり、変化を受け入れたりするにはやはり勇気がいりますし、痛みを伴うこともあります。

 それでも不安や恐れから気後れしないコツは、スモールステップから始めること。

 すぐに実践できるちょっとした行動なら、失敗しても壊滅的な事態になることはありません。

 特にリーダーがこうして小さくトライアンドエラーを繰り返しながら、地道にコツコツと歩みを進めていく姿を見せると、自然と周りも失敗を恐れず、心理的に安全で挑戦しやすい環境ができます。

 最初は保守的で頑なに心を開こうとしなかった人にもじわじわと新しい発想や行動様式が波及していき、組織全体に「再学習」が広がっていくのです。

ステップ3:ブレイクスルー(Breakthrough)

 自分は成功体験を捨て(脱学習)、新たな学びを得た(再学習)はず。なのに「アンラーン」がうまくいっている感じがしない時は、頭の中だけでやろうとしているからです。

 自分は頑張っているつもりでも、考え方を変えるだけで満足してしまっては全く変化は起きません。ステップ3の「ブレイクスルー」では、「アンラーン」が頭の中だけで終わっていないか、実際に変化が起きているかどうかを確かめます。

 本書でのオライリー氏の最大の貢献は、「アンラーン」を机上の空論に終わらせないよう、このステップ3をサイクルの中に盛り込んでいるところです。

 ではどうやったら頭の中だけで終わらず、変化を起こせるのでしょうか。

 多くの人は、「考え方を変えれば行動が変わる」と思いがちですが、オライリー氏の主張はその真逆です。

 彼は「考え方を変えるには、まず行動を変えなければならない。その影響として、考え方に変化が生じる」と言っているのです。

 次の図2は、行動の変化をきっかけに視点が変わり、今度はそれが考え方に影響し、さらにまた行動に影響するという「ブレイクスルー」の好循環を描いたサイクルです。

【BTSの劇的進化】中竹竜二さんがアンラーン読書会で語ったターニングポイント図2 ブレイクスルーのサイクル

 まずは小さなことから行動してみる。そしてその行動を振り返り、一段視座を上げてそれを抽象化し、言語化してみる。それが新たな学びとなって視点が変わると、マインドセットが変わる。

 すると他の事にも転用でき、さらにまた新たな行動につながるといった具合に、サイクルがぐるぐると回り出します。

「アンラーン」の3つのステップは綺麗に分断できるものではなく連続しているので、「ブレイクスルー」のサイクルが動き出すと、図1で示した「アンラーン」のサイクルそのものも加速します。

BTSがアンラーンしたものは?

 こうして「アンラーン」は、スモールステップで始めたことが積み重なり、新しく大きな成功へとつながっていくのです。

「アンラーン」が実現していくイメージがつかめたでしょうか。

 では、この「アンラーン」のサイクル、具体的にどんなところでどうやって実践されているのでしょうか。

 本書にはディズニー、アマゾン、テスラ、グーグル、NASAなどで実践されたケーススタディが詳しく紹介されていますので、私からは、私自身が最近心に響いた「アンラーン」サイクルの事例をお話ししたいと思います。

 2022年11月19日に読んだ朝日新聞デジタルの小島慶子さんのインタビュー記事『BTSから考える「男らしさ」の新時代 過ちを認め、学び、変化する』です。世界的な韓流アイドルグループ「BTS」のアンラーンストーリーです。少しご紹介しましょう。

 BTSは、かつては、らの歌の歌詞の中に「女は最高のギフト」「君が好きだけどコンバースは履いちゃダメ」など、女性を見下したり、外見で評価したりする表現が散見されたそうです。

 ところがフェミニズム運動の高まりもあって、BTSは「女性蔑視の表現だった」と認め、公式に謝罪をしました。

 これを機に彼らは、そうした歌詞の裏側にある無意識に内面化されてきた女性差別的な視点や、男はいつも強く、勝ち続けなくてはいけないという男尊女卑的な思い込みを手放しました。

 つまり、従来の「男らしさ」の価値観から「脱学習」したと言えるのです。

弱さをさらけ出せるのが勇気

 その後は自分の不完全さを認め、弱さをさらけ出しながらも、メンバー同士がいたわりあって成長していく姿をファンに惜しみなく見せるようになりました。

 また、これまで「女性性」に紐づけられていた化粧やスキンケアなどをする姿も包み隠さず見せています。

 無知や過ちを含め、自分たちらしさとは何かを考え、日々それを言葉で語ったり、行動を見せたりすることは、まさに彼らにとっての「再学習」でした。

 さらに、こうしたファンに向けた言葉や行動を抽象化し、言語化したものが、国連での“Love Myself”というスピーチです。

「ありのままの自分を受け入れ、自分を愛そう」というメッセージを世界中に発信したことこそ、彼らの「ブレイクスルー」だったといえるでしょう。

 全米ビルボードチャート1位を獲得するほどの人気となったのも、「BTSはBTSらしい、ありのままが素敵だ」と受け入れられ、「あなたもあなたらしくいればいい」という彼らのメッセージが多くの国の多様な人々の共感を呼んだからではないでしょうか。

 彼らのこのストーリーから、私もあらためて「自分らしさとは何か」をアンラーンするきっかけをもらいました。

 私たちもBTSのように、自分で自覚がなくても、それぞれいろんな葛藤を抱え、痛みや苦しみを伴いながらアンラーンしています。

 自分を疑ったり、自分を信じたり、両極を行ったり来たりしながら、一歩ずつ小さな言葉や行動を積み重ねていくのがアンラーンなのです。

 手放すことによってしか未来の成功は得られません。

 勇気を持って過去の成功体験を手放し、失敗しても怖くない小さなステップから「アンラーン」を始めていきましょう。