子育てで誰もが一度は悩む「子どもがスマホでYouTubeばかり見ている」問題、どう対処するのが正解なのだろうか。
その答えは、マイクロソフトのアジアリージョンマネージャーとして活躍する著者(イ・ソヨン)が書いた『パートナーシップーマイクロソフトを復活させたマネジメントの4原則』にあった。
マイクロソフトのアジアリージョンマネージャーとして活躍する著者は、2人の子どもを育てるワーキングマザーでもある。
マイクロソフトの復活を支えた競争よりも助け合いという考え方は、親子夫婦関係にも応用できると著者は語る。
著者と同じく2児を育てるワーキングマザーであり韓流誌編集者の野田智代さんが、本書の考え方を自身の子育てにどう取り入れ、「子どもがスマホでYouTubeばかり見ている」問題にどう向き合ったのかをレポートする。

スマホでYouTubeを見てばかりいる子どもに何と言うべきか?Photo: Adobe Stock

Youtube禁止令や
視聴ルールを決めても効果なし

「“子どもがスマートフォンでYouTubeばかり見ている”と心配する親が多い」
ドキッとする一文に、手が止まる。
我が家の子どもたちも同じだ。コロナ禍以降、外遊びがめっきり減って、自宅で動画ばかり見ている。
幾度となく禁止令を出したり、視聴ルールを書いて壁に貼ったりしてみたものの、効果は出ない。
私自身がYoutubeを「子守」に利用しているのせいなのか……。

迷える「親羊」たちに、『パートナーシップ』著者のイ・ソヨンさんは、こんなふうにアドバイスしてくれている。

「辞めさせるのではなく、むしろ一緒に見てあげてください」

マイクロソフト本社のアジアリージェントマネージャーを務めるイ・ソヨンさんは、本書のなかで「相手とともに成長するパートナーシップのあり方」について書き綴っている。

この考えの土台になっているのが、長期低迷にあったマイクロソフトが、時価総額1位の座に返り咲いた復活劇だ。
サティア・ナデラ現CEOが全社員に投げかけた問いである「あなたは誰かの成功のために貢献したことがあるか?」という人事評価改革が、組織や個人がともに成長できる関係へと生まれ変わらせた。

それだけでなく、チームのマネジメントを担当していた著者の内面にも変化が表れた。
「他人の成功に貢献することが自分の成功につながる」ことを、身をもって体験したという。

本書は、そんな著者がマイクロソフト復興の過程で学んだ新しいパートナーシップの築き方を4原則にまとめ、職場、職場外、プライベートの3つの場に当てはめた実例を紹介してくれている。

編集業を営む傍ら、小学生2人の子どもの育児に奮闘する私は、仕事とプライベート、全方位に役立ちそうなこの本との出会いに、ちょっぴり興奮を覚えた。
なかでも興味深く感じたのが、プライベート=家族や家庭についてとりあげたPART3だ。

私と同じく2人の子をもつワーキングマザーのイ・ソヨンさん自身が、職場でのパートナーシップを家庭にも応用し、一定の成果を出したというのだから、驚き半分、半信半疑で読み進めた。

「徹底的に寄り添い、フィードバックする」

これは、イさんが提案する「パートナーシップの4原則」のひとつで、私がもっとも印象に残った言葉だ。
(※編集部注:パートナーシップの4原則とは次の4つ。1.お互いのビジョンを確認する 2.助け合い<相互扶助>ベースで動く 3.徹底的に寄り添い、フィードバックする 4.すべての関係者とパートナーシップを築く

「寄り添う」という優しい響きが、すーっと心に溶けていった。
日頃からライターやデザイナーの腕を頼りに仕事をしている編集者の私にとって、相手の能力や個性を最大限に引き出せるよう心地よく伴走することが、どれだけ大事なのか分かっているつもりだ。

一方でプライベートではどうなのか。子どもたちに、どう寄り添ってきたのだろう…?
はっと気づかされる。
「子育ては理想通りにいかないもの」
そんな言葉で無罪放免して早、何年……? 忙しさを理由に、YouTubeに子守を任せて何年……?
「そのうち、どうにかしよう」「そのうち、どうにかなる」と、謎の呪文で放置してきた私は、ピッと襟を正された気分になった。

パートナシップPhoto: Adobe Stock

子どもが見ているYouTubeを
親が一緒に見る理由

本書でイさんは、<YouTubeばかり見ている子どもを心配する親に、辞めさせるのではなく一緒に観るようにとアドバイスするのは、どうしてそれが好きなのか、意見を交わして子どもの個性を見つけることが大事だと考えているから>と述べている。

思いもよらない言葉に驚いて、何度も読み返してしまった。子どもの動画視聴やゲーム対策に関しては、これまで誰に聞いても「時間を決める」「取り上げ強制執行」「ご褒美作戦を」……と、辞めさせる方法しか提案されたことがなかったのに?

「これならできそう!」

目の前がパッと明るくなり、今まさに夢中でYouTubeを見ている息子のそばに行ってみた。
なるほど、彼が「食レポ」や「宝探し」が好きなジャンルだと初めて気づいた私。

もっと興味深いのは、「どうして好き?どこが好き?」と何度も尋ねるうちに、息子が検索画面を積極的に使ってチャンネルを選ぶようになったこと。
まさに本書で説かれている<寄り添い、フィードバックする>関係ができた瞬間!

子どもも大事な家庭のパートナーであると考えるイさんは、マイクロソフトのマネージャーが社員をコーチングするように、子どもの言葉に耳を傾け、個性や特徴を伸ばしていけるよう導くことが大事だと教えてくれる。

言われてみれば家庭というものは、もっともミニマムな社会の単位。
あれほどまでにイライラの種だったYouTubeも、今では我が子の知らない世界を覗くツールになっている。
悩んだときには、またこの本を開いて、イさんが実践したパートナーシップのモデルを活用してみたい。

野田智代(のだ・ともよ)
1977年、愛知県生まれ。立命館大学文学部卒業。1999年から1年間、韓国・延世大学に語学留学。『KNTVガイド』等、韓流誌の編集者を経て、2019年に株式会社クリエイティブパルを設立。韓国ファン専門の自分史制作サービス「韓流自分史」を立ち上げる。自分史活用アドバイザー、写真整理アドバイザー。駐横浜韓国領事館オンラインパートナーとして、イベント業務にも関わる。配信ラジオ「韓LOVEステーション」では、「のだっち」の愛称で活動中。2児を育てるワーキングマザー。
Twitter:@hanmemo