韓国人が犬肉料理を食べなくなった二つの理由
韓国人の間で犬肉料理が否定的に見られるようになった理由は、大きく二つある。
一つ目は、海外から批判を受けたことだ。この影響は大きい。1988年のソウル夏季五輪や2002年のFIFAワールドカップでは、西側諸国からの圧力を受けて、開催期間中は犬肉料理の提供が禁止された。2018年の平昌(ピョンチャン)冬季五輪でも、韓国政府が飲食店に対して開催期間中は犬肉を使った料理の提供を自粛するよう求めたりもした。だが、この時は犬肉を提供する12の飲食店のうち、政府の要請に応じたのはわずか2店舗だけだったそうだ。
韓国人が犬肉料理を否定的に見るようになったもう一つの理由は、近年のペット人気の高まりの影響である。KB金融持株経営研究所によると、韓国では2020年末時点で604万世帯(全世帯の29.7%)、1448万人がペットを飼っている。飼育しているペットを種類別でみると(複数回答)、犬が80.7%(586万匹)と最も多く、猫が25.7%(211万匹)、観賞魚、ハムスター、鳥、ウサギと続く。かつて食用だった犬は、徐々に「家族」というポジションを得つつある。
そういえば、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領も、文在寅(ムン・ジェイン)前大統領も、犬を数匹飼う愛犬家である。国のリーダーを筆頭に、犬はペットとして韓国人の生活に浸透してきたのだ。
こうした理由で、韓国の若い世代は犬肉を食べなくなってきている。近年は韓国も動物愛護団体による犬・猫の保護活動が盛んだ。こういったものに幼いころから触れてきた若者たちが犬肉を食べることに反対するのは、当然の流れなのかもしれない。
少々余談になるが、日本では「実家で飼っていたニワトリを絞めるようすを見て、鶏肉が食べられなくなった」という年配の人の話をときどき聞く。母親が犬肉食堂を営んでいたという韓国人の知人女性もそれと同じで、物心がついた頃から犬肉を食べなくなったそうだ。学校から帰宅する度に食堂で仕込みをする母の姿と、食材の犬を目にすることが本当に嫌だったという。彼女のように、昔の記憶が原因で犬肉を口にしなくなった人も少なくないはずだ。