サブスクリプションサービス(以下、サブスク)が盛り上がりを見せている。今ではサブスクを提供していない業種を探すほうが難しいくらいだ。ただ、サブスクを提供する業種は多いものの、苦戦する企業が少なくないのも実情である。
なぜ、サブスクがうまくいかないのか。創業間もない頃のセールスフォースに参画してCMO(最高マーケティング責任者)やCSO(最高戦略責任者)を歴任後、2007年に収益管理や料金回収システムなどサブスクサービス展開に必要な機能をクラウドで1000社以上に提供するズオラ(Zuora)を創業し代表を務めるティエン・ツォらがまとめた書籍『サブスクリプション 「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル』(ティエン・ツォ/ゲイブ・ワイザート、監訳・桑野順一郎、訳・御立英史)では、サブスクの本質といかに実践するかが語られている。本稿では、成功するサブスクサービスの本質について一部抜粋して紹介する(構成・栗下直也)。
掛け声だけの顧客主義になっていないか
サブスクは顧客を見るところから始まる。
「何を当たり前のことを今更いっているのだ」「顧客を見るのはビジネスの基本だろ」と多くの人は思うだろう。
だが、企業は本当に顧客を見ているのだろうか。
著者は「いまだにフォーチュン500の大企業が正しく認識できていない」と指摘する。世にあふれる顧客志向はあくまでも製品あっての戦略の場合が大半だという。
そして面白いことが起きた。セールスフォースやアマゾンのようなデジタル世界の破壊者たちが、顧客とのあいだに真に直接的かつ継続的な関係を確立することによって、顧客ファーストのコンセプトを大きく前身させたのだ。彼らはセグメントに分けた顧客を相手にせず、一人ひとりのサブスクライバーと向き合ってビジネスを行っている。(p.35)
これまでの多くの顧客戦略は、あくまでも製品を中心に置いたうえでの「顧客主義」の掛け声にすぎない、と言っても言い過ぎではないだろう。
それを物語るように、企業には顧客ひとりひとりの顔は見えていなかったし、見ようとしなかった。なぜ、見なかったのか。見る必要がなかったのだ。
従来のモデルではつくった製品がひとつでも多く売れればよかった。極論で語れば誰が自社製品を買おうがよかった。
実際、20世紀に成功したビジネスモデルに出てくるキーワードを思い浮かべてほしい。「在庫管理」も「サプライチェーン」も「原価低減」もすべては製品に紐づいたワードではないか。つまり、製品を売るために業務効率化をいかに進めるかが最大の課題だった。そこでは顧客の姿は決して大きくはなかった。
一人ひとりの顔を知る
一方、今、サブスクで成功している企業は顧客一人ひとりの顔を知っている。アマゾンもネットフリックスも、自分たちが誰に何を売っているかをもちろん知っているし、彼・彼女らがどのようなものをほかに欲しているかも予想でき、先回りして提案できる。顧客の欲望にとことん向き合っている。これこそがサブスクモデルの根幹だ。
具体例で考えてみよう。サブスクの本質を理解するには、アマゾンとウォルマートの違いを考えてみるとよい。この2社はEコマースと小売りの違いと考えられがちだが、それは間違った解釈だ。
もちろん、最近はウォルマートもデジタル化を進めている。Eコマースや決済アプリ、商品の配送などに力を入れている。ただ、いくらウォルマートがデジタル化を進めようとも、顧客の欲望を起点とするアマゾンとは埋めがたい差がある。両社の違いとは、
リースとサブスクの違いは?
続いて紹介する点も当たり前のことのように聞こえるが、サブスクが普及している今も実践できていない企業が多いのではないだろうか。
サブスクの盛り上がりはデジタル化の進展のおかげである。あらゆるモノがインターネットにつながり始めたことで、企業は顧客の欲望を汲み取れるようになった。だが、デジタル化を進めればサブスクに成功するわけではない。
そもそもの議論に立ち戻ってみよう。サブスクと聞くと、日本ではいまだには単なる定額制サービスと思われがちだが、それは大きな間違いだ。サブスクは顧客起点の新しいビジネスモデルであり、支払手段の変更ではない。
この視点がないと「サブスク」と名付けたサービスを提供したところで、消費者はメリットを感じにくい、例えば、自動車のサブスクは従来型のリースとの違いがわかりにくいとの声も少なくない。たとえばトヨタ自動車グループのKINTOが担う車のサブスクリプションサービスの契約者数は当初の計画を下回っているのは、その証左の一つだろう。
好きなときに契約し、好きなときにやめられるだけでなく、顧客の要望を察知してサービスのアップグレードやダウングレードを提供することで、一日でも長く利用してもらう。デジタル化によるデータ収集と分析を生かして、どこまでも、あるがままの顧客の欲求に対応する。これがサブスクモデルの本質なのだ。この視点をまず持つことが、サブスクで苦戦を強いられている企業が苦境を脱するヒントになるかもしれない。