コロナ禍では、お金を増やすより、守るほうが大切です。
相続税は、1人につき1回しか発生しない税金ですが、その額は極めて大きく、無視できません。家族間のトラブルも年々増えており、相続争いの8割近くが遺産5000万円以下の「普通の家庭」で起きています。
本連載は、相続にまつわる法律や税金の基礎知識から、相続争いの裁判例や税務調査の勘所を学ぶものです。著者は、日本一の相続専門YouTuber税理士の橘慶太氏。チャンネル登録者数は8万人を超え、「相続」カテゴリーでは、日本一を誇ります。また、税理士法人の代表でもあり、相続の相談実績は5000人を超えます。初の単著『ぶっちゃけ相続 日本一の相続専門YouTuber税理士がお金のソン・トクをとことん教えます!』も出版し、遺言書、相続税、不動産、税務調査、各種手続きという観点から、相続のリアルをあますところなく伝えています。そんな橘氏による「税務調査」に関する寄稿です。

税務署がタンス預金を狙い撃ち!「ちょっとした無申告」が一番危ない!Photo: Adobe Stock

「無申告者、タンス預金を狙い撃ち」が近年の税務調査のトレンド

 2022年12月16日に公表された、令和5年度の「税制改正大綱」。相続と密接に関わる贈与税に加えられた大きな変更は、「お金持ちの家庭」のみならず、「普通の家庭」にも大きなインパクトを与えました。私の元にも、納税者からの相談がたくさん寄せられています。

 今回の改正は、おおまかにいえば「増税」に向けての改正といえます。贈与税や相続税の負担が増えると、それに比例して贈与税・相続税の申告をしなかったり、タンス預金をしてお金を隠し、意図的に過少申告したりする家庭も増える傾向にあるのですが、これが非常に危険です。

 税務署はKSKシステム(国税総合管理システム)という巨大なデータベースを持っており、国民ひとりひとりの稼ぎや財産を把握しています。そこから導き出される額より、相続税の申告が明らかに少ない家庭は、税務調査の対象に選ばれる確率が高くなるのです。

 そしてその確率は、ここ数年、とくに高まっています。「無申告者やタンス預金を狙い撃ち」が最近の税務調査のトレンドなのです。

「ちょっとくらいならいいだろう」が狙われる

 下記グラフは、無申告事案に係る税務調査実績の推移です。

税務署がタンス預金を狙い撃ち!「ちょっとした無申告」が一番危ない!出典:令和3事務年度における相続税の調査等の状況(国税庁)

 コロナ禍によって調査件数は減っていますが、それまでは右肩上がりに増えていました。調査件数が増えた原因は、それまでは見つけながらもお咎めなしにしていた、「基礎控除をちょっとだけ超えている、しかし確実に超えている人」のところにも調査にいくようになったからです。

 なぜ急に、調査の基準が厳しくなったのか。とある筋から聞いた話なのですが、どうやら「見せしめ」の意味合いが大きいようです。

 無申告でも、過少申告でも税務調査を逃れた人が、周りの人に「実際の財産よりちょっと少ない申告をしたくらいじゃ、税務調査なんてこないよ」と言いふらしたら、同じような額の財産を持っている層がみんな、正しく申告しなくなってしまいます。税務署にとって、これはとても困る事態です。

 そのため税務署は、ちょっとした無申告や過少申告を重点的に狙い撃つことで「税務署を甘く見ると大変なことになるぞ」と知らしめ、正しい申告を促そうとしているのです。

 無申告や過少申告は「節税」ではなく「脱税」です。相続税の申告はきちんと行うに越したことはありません。