2023年早々、中国政府は人口が減少したことを発表しました。中国で少子高齢化が進んでいることは知られていたものの、想定以上の速い人口動態の変化に衝撃を受けた人は多かったようです。一方で2022年、世界人口は80億人を突破して増大していると国連が発表。世界における中国の影響力はこの先どうなっていくのでしょうか。『米国防総省・人口統計コンサルタントの 人類超長期予測』(ジェニファー・D・シュバ著、ダイヤモンド社刊)を刊行したばかりの、世界の人口統計学の権威の味方を紹介します。(訳:栗木さつき)

中国人男性Photo: Adobe Stock

中国の生産年齢は、急激に減少する

 図表8の上のグラフを見ればわかるように、2021年の中国の人口構造は、すでに人口減少中の日本にも、人口爆発中のナイジェリアにも似ていない。

中国の人口ピラミッド

 人口の大半は中央付近に集まっている。2021年の中国の人口の64・5%は「生産年齢」〔生産活動の中心にいる15~64歳〕に当たるのだ。

 労働者がたくさんいて、従属人口〔15歳未満の年少人口と65歳以上の老年人口〕が少ないのだから大いにけっこうと思えるが、中国について私たちがよく耳にする現状とは矛盾していないだろうか?

 グーグルで「中国 人口」というワードで検索してみると、最初のページに表示されえるのは「中国の人口政策、いまでは解決策ではなく問題に」(ハフィントン・ポスト)、「中国の喫緊の課題は高齢化する人口への適応」(アトランティック誌)、「もっとも驚くべき人口危機」(中国の高齢化に関するエコノミスト誌の記事)といったトピックだった。

 それに国防や経済に関する本や雑誌を読むと、中国が富裕国の仲間入りをする前に高齢化を迎える世界初の国になるだろうという内容が必ず書かれている。

 だが、それほど単純な話なのだろうか?ようやく王座に就いたそのとたんに、人口の高齢化によって、世界における中国の威信は失墜する運命にあるのだろうか?

中国の高齢化の人口動態から何が読み取れるか

 こうした疑問に答えるために、まずは人口構造の見方について考えてみよう。ある時点での人口構造は、どんなものであれ、現在の状況だけではなく、過去と未来についても物語っている。

 たとえば、いま30歳の人たちは、20年前には子どもだったが、20年後には50歳になる。そして、人口統計学は過去を光で照らし出す。

 というのも、人口の推移を解釈する方法がわかれば、世界の政治・経済・社会にどのような力学が作用しているのかを考察できるようになるからだ。

 それに人口統計学を理解すれば、平和と紛争、好景気と不景気、文化における革命といったものの周期についても、長い目で見られるようになる。

 とはいえ、やはり、ある時点での人口構造だけからではわからないことも多々ある。たしかに、中国では高齢化が進んでいる。

 図表8を見ればわかるように、2050年には中国の人口の3分の1以上は、ほぼ間違いなく60歳を超えているだろう。しかし、それが本当に意味するところは何なのだろう?

 もし、2050年に中国の労働市場から去っていく人の平均年齢が、現在のフランス(61歳)より日本(71歳)に近かったら?

 図表8の下のグラフの上部が四角い枠で囲ってあるように、もし、中国の高齢者の枠に入る人の特徴に「就労していない」という条件を加えるのであれば、高齢者を分ける年齢の境界線を変える必要が生じるだろう。

 というのも2050年には、中国で就労していない人は人口の37%(60歳以上)ではなく、わずか21%(70歳以上)になっていると予測されるからだ。

 また、このグラフからは、中国が高齢者の年金のためにGDPの約4.1%―この割合はOECD(経済協力開発機構)の平均8.8%の半分にも満たない―しか割いていないこともわからないのである。

 高齢化している日本の人口構造をいくら眺めたところで、高齢者を介護する文化、高年齢労働者に関する法律、日本の有権者が年金制度改正をどの程度支持しているかといったことは、何もわからない。

 中国のそれを知ることが人口だけから読み取ることはむずかしいのと同様だ。