情報が次から次へとあふれてくる時代。だからこそ、普遍的メッセージが紡がれた「定番書」の価値は増しているのではないだろうか。そこで、本連載「定番読書」では、刊行から年月が経っても今なお売れ続け、ロングセラーとして読み継がれている書籍のメッセージをご紹介していきたい。
第7回は2008年に刊行、アメリカの広告業界で58年も活躍し続けた伝説のコピーライター、ジョン・ケープルズの『ザ・コピーライティング――心の琴線にふれる言葉の法則』(神田昌典監訳)。4話に分けてお届けする。(文/上阪徹)
>>前回記事「【科学的に実証】「ただの言葉」に魔法をかけるコピーライターの超手法とは?」はコチラ

同じ内容なのに「スルーされる言葉」と「人を動かす言葉」との決定的な違い【効果検証済】Photo: Adobe Stock

広告は「○○」が命

 90年以上も読み継がれ、2008年刊行の改訂新版も26刷12万部とロングセラーとなっている『ザ・コピーライティング』

 広告業界の伝説のバイブルと言われているが、本書はまさに超実践的、超実用的な本である。実際に、どんな言葉が人を動かしたのか、どんな言葉が動かせなかったのか、豊富な実例をもとに解説されていく。

 まず詳しく語られるのが「見出し(キャッチフレーズ)」についてである。第2章「広告は見出しが命」の冒頭で、著者のジョン・ケープルズはこう記している。

 この本は18章構成で、うち4章、つまり全体の5分の1以上が広告の見出しについてである。4章を割いても多すぎることはない。それくらい見出しは肝心なテーマなのだ。ビジュアルがどれほど目立っていようが、ほとんどの広告では見出しが決定的に重要だからだ。ほとんどの人が、見出しだけを見て、関心があるかどうかを判断している。新聞の報道記事や社説の見出しとまったく同じで、広告の見出しも、その続きを読んでもらうために大きな文字で印刷した、簡潔なメッセージなのだ。(P.58)

 そしてケープルズは、こんな質問を投げかける。ある通販の広告で、一方は効果があり、一方はダメだった。どちらが効果的だったか。その理由はどんなものだったか。

「言葉遣いを間違えないかと心配ですか?」

「こんな言葉遣いの間違いをしていませんか?」
(P.59)

「読まれた見出し」と「スルーされた見出し」の決定的な違い

 全体の印象はまったく同じで、見出しだけが異なる2種類の広告が作られたのだ。読み手を惹きつける力の差の大部分は、この見出しにあった。結果はどうだったか。

 はるかに多くの問い合わせと申込みを得たのは、2番目の見出しだった。

 ケープルズはこう分析する。

 2番目の見出しにあって、1番目の見出しにない要素は何だろう?
 2番目の見出しの「こんな」という言葉でその差が出たのだ。
「こんな言葉遣いの間違いをしていませんか?」という見出しが読み手に言っているのは実は、「この下に、言葉遣いの間違いがあります。コピーを読んで、同じような間違いをしていないか確かめてみましょう」ということだ。
 これが、読み手の「好奇心」を刺激し「得になる」と思わせる。(P.59~60)

 一方、1番目の見出しの問題点についても指摘する。

 この見出しでは、言葉遣いの面白い間違いがこの下にある、ということが読み手に伝わりすらしない。伝わってくるのは、文法の本か正しい言葉遣い講座の売込みだろう、ということだけだ。売込みなど誰が読みたいだろうか。(P.60)

 たしかにそんな印象を受ける。だから、この見出しは効果を得られなかったのだ。こんなふうに、効果の出たもの、出なかったものを比較したり、実際の優れた広告を数多く紹介、ケープルズ自身が詳しく解説しているのが、本書の大きな特色だ。

 しかも、どうやって見出しやコピーを作っていけばいいか、も指南してくれる。もちろん、効果が出るもの、という前提だ。50年以上にわたって、「科学的広告」の促進を目指してきたケープルズ。美しい広告などではなく、効果が出る広告こそ、彼が目指してきた広告だったからである。

 そしてそれは、誰にでも広告づくりの大きなヒントにすることができる。だからこそ、90年も読み継がれてきたのだ。

人を惹きつける「効果的な見出し」3パターン

 例えば、効果的な見出しは3パターンに分けられる、とケープルズは書き記す。「得になること」「新情報」「好奇心」の3つだ。本書では、例を挙げて解説されている。

1●得になること
 1番効果的な見出しは、読み手の得になることをアピールする、つまり、相手のベネフィット(ためになること)に基づく見出しだ。(中略)たとえば――――
「さらに50ドルの昇給」
「55歳で退職」
2●新情報
 2番目に効果的な見出しは、新しい情報を提供するもの。たとえば――――
「フォード・トラックの新機能」
「出ました――――新タイプのハンドクリーナー」
3●好奇心
 3番目に効果的な見出しは、好奇心をそそるもの。たとえば――――
「行方不明:3万5000ドル」
「奥さまに対してフェアですか?」
(P.63~64)

 そして、無意味な見出しの例、何が言いたいのかわからない見出しの例も挙げる。見出しを作るとき、何をやってはいけないか、何をやるべきかがわかるのだ。

 さらに第3章では「どんな見出しが1番注目されるか」で見出しの成功例10本が解説され、第4章「効く見出しはこう書く」では、見出し失敗例10本、見出しを書く5つのルール、見出しを書く13のヒントと続き、第5章では「35の見出しの型――効果は検証済み」と続く。効果のあった型が35も紹介されているのだ。もちろん、見出しに続くコピーそのものについても、さまざまに指南が行われる。

 とにかく徹底的に実践的なのである。広告やプロモーションに携わる人に、これから携わるかもしれない人に、モノやサービスを売ろうと考えている人に、大きな示唆を間違いなく与えてくれるはずだ。

(本記事は『ザ・コピーライティング 心の琴線にふれる言葉の法則』より一部を引用して解説しています)

上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『マインド・リセット~不安・不満・不可能をプラスに変える思考習慣』(三笠書房)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。

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