ラテン語こそ世界最高の教養である――。超難関試験を突破し、東アジアで初めてロタ・ロマーナ(バチカン裁判所)の弁護士になったハン・ドンイル氏による「ラテン語の授業」が注目を集めている。同氏による世界的ベストセラー『教養としての「ラテン語の授業」――古代ローマに学ぶリベラルアーツの源流』(ハン・ドンイル著、本村凌二監訳、岡崎暢子訳)は、ラテン語という古い言葉を通して、歴史、哲学、宗教、文化、芸術、経済のルーツを解き明かしている。韓国では100刷を超えるロングセラーとなっており、「世界を見る視野が広くなった」「思考がより深くなった」「生きる勇気が湧いてきた」と絶賛の声が集まっている。本稿では、本書より内容の一部を特別に公開する。

【快楽主義のススメ】メンタルが超安定する「古代ローマ人のシンプルな考え方」Photo: Adobe Stock

いま、私たちに足りないものとは?

『いまを生きる』という、90年代に世界的ヒットを納めた映画をご存じですか?「カルペ・ディエム Carpe diem」というセリフで有名ですよね。

「今日に集中し、いまを生きろ」という意味のラテン語です。映画を知らない人でも、この言葉は耳にしたことがあるのではないでしょうか?

「Carpe diem」はもともと農業と関連する隠喩として、ローマの詩人ホラティウス(Quintus Horatius Flaccus, B.C.65~B.C.8)が書いた詩歌の最後の部分に端を発した詩句でした。

Carpe diem, quam minimum credula postero.
カルペ・ディエム、クァム・ミニムム・クレドゥラ・ポステロ
(その日を摘め、明日をできる限り信じないで)

「カルペ carpe」とは、「カルポ carpo」(つるや果実を収穫する)という動詞の命令形です。果実を収穫する過程とは手間もかかる大変なものですが、1年中汗水垂らして働く農民にとって、秋の実りを収穫することは何物にも代えがたい喜びだったはずです。

 そこから動詞のcarpoに「楽しむ、享受する」という意味が追加されて「カルペ・ディエム Carpe diem」すなわち「今日を楽しめ」という言葉になりました。

 詩の文脈上、「明日に期待することなく、今日に意味をもって生きよ」と解釈することができます。それが今日までに度重なる意訳を経て、「今を楽しめ」という意味で定着しているのですが、注目すべきは、この言葉が、まるで快楽主義のキャッチコピーのようになってしまったことにあります。

現代社会を生きる、私たちへの警告

 ホラティウスが属したエピクロス学派は快楽主義を指向したことで知られています。ですが彼らが追求した快楽とは、世俗的や肉体的、刹那的なものではなく、精神的な快楽、言い換えれば充実した人生、乱れることのない安定した平和的な精神状態を指します。

 東洋で言うところの知足安分(訳注:自分の置かれている境遇に満足し、欲張らないこと)を追求していたのです。だからホラティウスの「今日を楽しめ」という意味も、目の前のことだけを感覚的に楽しんで生きろという意味ではありません。いつでも充実した人生の意味を感じながら生きなさいという警句なのです。

(本原稿は、ハン・ドンイル著『教養としての「ラテン語の授業」――古代ローマに学ぶリベラルアーツの源流』を編集・抜粋したものです)