拡張志向のデザイナーから生み出されるエネルギー

――拡張された役割を積極的に担っていきたい、というデザイナーも増えているのでしょうか。

 増えていますね。こちらが意識的にそういう人を採用しようとしているのもありますが、特に若い人は拡張志向が強いと感じます。新入社員には、自分で担当したいテーマを提案してもらうようにしているのですが、特定の商品やサービスのデザインより、自分の視点で課題を探し出し、その解決につながる仕組みを発想してきてくれる人が多いです。

 もちろん、かっこいいもの、美しいものが作りたくてデザイナーになったという人もいますし、そういう人が活躍できるものづくりの領域もまだまだあります。デザインの原点でもありますから、これからもそういう人を大事にしていかないといけません。その上でデザインの現場は拡張されており、営業と一緒に顧客企業に入り込んで関係を構築したり、顧客も交えたチームをファシリテートできる人材がもっと増えてほしい、というのも正直なところです。

――デザイナーにもプログラミングやエンジニアリングの知識が求められるようになっていますね。

 それはその通りですが、「デザインとエンジニアリングは融合されているべき」という前提が共有された結果、今は技術の方から人間に近づいてきてくれているように思います。例えば、難しいコードが書けなくてもアプリが作れたりするというように。

 こうした状況も活用して、デザイナーが得意分野を持ち寄って学び合う動きも活発です。特に3Dやメタバース領域など、最新分野に対する学習意欲は高く、オンライン勉強会を開いたり、情報交換用のチャットルームを作ったり……。自らどんどん動くデザイナーたちの姿勢には頭が下がります。会社のサポートが追い付いていないのですが、「こんなことがしたい」と声を上げてくれれば費用を充てるなど、成長のための投資は重要だと考えています。

 最近では、自主的に「バーチャル病院」まで構築していました。医療のような専門領域のサービス開発では、実際に現場に出向いて医師や看護師の行動を観察したり、仕事を理解したりすることが大事です。ところがコロナ禍でそれができない状況が続いていたので代替できる場を作りたいと。口出しせず任せていたら、気付けば完璧に3D空間が出来上がっていて驚きました。早速ヘルスケア事業部に紹介して、今は製品やサービスの開発環境として活用が本格化しつつあります。今後もモーションキャプチャーを導入するなど、進化の勢いは増していくと思います。