半導体 最後の賭け#4Photo:David Wall/gettyimages

日本を代表する8社が出資し、世界最先端の半導体の国産化を目指す国策会社ラピダスが始動した。コンピューターの「頭脳」に使うロジック半導体の最先端技術を開発し、早ければ27年にも量産を開始する計画だ。30年までに5兆円を要する巨大プロジェクトの成否は、半導体を使う”顧客”を確保できるかどうかにかかっている。特集『半導体 最後の賭け』の#4では、出資者以上に影響力を持つ顧客企業の正体を明らかにしつつ、日米韓台の経済安全保障の構図からラピダスの先行きを展望する。(ダイヤモンド編集部 村井令ニ)

ファウンドリ事業化の鍵握る
2ナノを使いこなせる顧客の存在

「ラピダスの半導体を使う分野は三つある。まずは高性能コンピューター(HPC)、ポスト・スマートフォン製品、最後にエッジコンピューターで、その代表が自動車だ。クルマが自動運転になれば間違いなく『2ナノ』の半導体が必要になる」

 国策半導体会社ラピダスの小池淳義社長は、このように先端半導体の重要性について語る。同社が国産化を目指すのは、回路線幅2ナノ(ナノは10億分の1)メートルの半導体。まだ世界に存在していない難航必至のプロジェクトである。

 この最先端技術をラピダスに供与する役割を果たすのが米IBMだ。ラピダスは2023年から米ニューヨーク州にあるIBMの半導体研究施設「アルバニー研究所」に社員を派遣して技術を習得し、25年前半までに国内に試作ラインを立ち上げる予定だ。

 技術の習得とともに、最初のハードルとなるのは予算の確保だろう。開発と試作にかかる資金は約2兆円。さらに、早ければ27年からとしている量産・出荷の設備の投資には3兆円規模が必要となる。

 今のところラピダスが確保できているのは、政府からの補助金700億円と、国内の出資企業8社から集めた73億円にとどまっている。

 最初の数年は資金を国家予算に依存するにせよ、いずれは民間企業から資金を引き出しプロジェクトの独り立ちを図らねばならない。その成否は、ラピダスに半導体の製造を注文する「ユーザー企業」を獲得できるかどうかにかかっている。

 ソニーグループ、トヨタ自動車、NTTをはじめとする出資企業は有望な顧客企業候補ではあるが、2ナノ半導体を使いこなせるだけの開発意欲と技術力が十分に備わっているとはいえない。

 だが実は、ラピダスには同社の最先端半導体の製造能力を確実に必要とする「米巨大企業の顧客」がいる。次ページでは、その顧客の正体を明かす。また、「受託生産企業(ファウンドリ)モデル」を志向するラピダスが、競合の台湾積体電路製造(TSMC)とどう差別化して新しいビジネスモデルを描こうとしているのか。ラピダスの勝算について解説する。