ゴンがついに
監督業をスタート

J3のアスルクラロ沼津の監督に就任した“ゴン”こと中山雅史氏J3のアスルクラロ沼津の監督に就任した“ゴン”こと中山雅史氏 (筆者撮影)

 今シーズンのサッカー界を見渡せば、現役時代に「炎のストライカー」として活躍。W杯における日本代表の第1号ゴールも決めた55歳の中山雅史氏が、古巣のジュビロ磐田コーチを経て、20年限りで現役を終えたJ3のアスルクラロ沼津で初めての監督業をスタートさせる。

 中山氏は16年度のS級コーチ養成講習会を受講し、同年度中にすべてのカリキュラムを修了した。しかし、指導者としての実績も求めていた当時の制度下でJFAから認定されず、19シーズンから沼津のU-18コーチも兼任。20年3月にようやく付与された経緯がある。

 先月下旬に臨んだ就任会見で、今シーズンのスローガン「結束 熱く闘え!」を自ら筆を取って記した中山氏はJ2降格を喫した磐田を退団し、沼津のオファーを受諾した理由をこう説明した。

「(磐田では)自分がやってきたことを、なかなか形にできなかったところで責任を感じていたし、そこで現場に残る選択は難しい状況があった。沼津には選手として所属しながら、チームの勝利にまったく関われなかった悔しさもあった。自分の力がどれだけのものかはまだわかりませんが、以前に自分が成し得なかった、沼津の力になることへチャレンジするのが一番なのかな、と」

 同じくJ3を戦うSC相模原の新監督には、髪を赤色に染めた風貌で02年のW杯日韓共催大会を戦った戸田和幸氏が就任。17年にS級を取得し、解説者を務めながら大学やクラブチームで指導実績を積んできた戸田氏は、相模原の監督就任を含めたサッカー人生を「運と縁」と表現する。

 運とはDeNAが1日付で相模原を連結子会社化し、Jリーグへ本格的に参入したこと。そして縁とはDeNAのスポーツ事業本部戦略部長を務め、同日付で相模原の代表取締役社長に就任した西谷義久氏の存在だ。戸田新監督は西谷氏も同席した昨年末の就任会見でこう語っている。

「隣におられる西谷さんが僕に関心を持っていただいた運が始まりで、そこから付き合いという縁があったなかで、新しい野心的なプロジェクトに監督という立場で関われるチャンスを逃すわけにはいかなかった。このクラブの力になりたい、と思わせてくれたオファーでした」

 95年から監督を務めた青森山田を高校サッカー界屈指の強豪校へ育て上げた52歳の黒田剛氏が、今シーズンからJ2のFC町田ゼルビア監督へ異例の転身を果たしたのも運と縁に導かれたものだと言っていい。黒田氏自身は2007年にS級を取得。資格上の準備を整えていた。

 ヨーロッパサッカー連盟(UEFA)の最上位指導者ライセンス、UEFAProとの互換性が認められていない状況を含めて、S級ライセンスには課題も残されている。日本代表の前キャプテン、39歳のMF長谷部誠(フランクフルト)はUEFAのライセンスを取得し始めている。

 それでもS級取得までのスピード化が図られ、くしくもタイミングを同じくしてJクラブ監督の顔ぶれも、予備軍を含めて多様化してきた。S級ライセンスの取得状況と当事者たちをめぐる運や縁をひもといていった先に、見ている側の心を躍らせる、日本サッカー界の未来予想図が広がっている。