メガバンク 最後の審判 三井住友の死角#1Photo by Takahisa Suzuki

SMBC日興証券は2月13日、金融商品取引法違反で起訴された相場操縦事件について、東京地方裁判所から有罪判決を受けた。しかし、三井住友フィナンシャルグループでは持ち株会社のトップはもちろん、当の日興の社長ですら引責辞任していない。翻って2021年、システム障害を相次ぎ発生させたみずほフィナンシャルグループでは、みずほ銀行と持ち株会社の両トップの首が取られた。「全ては金融庁のさじ加減で決まるということだ」(銀行幹部)――。特集『メガバンク 最後の審判 三井住友の正念場』の#1では、銀行業界からの不信や諦めが募る金融庁の対応の真意や、三井住友とみずほの“事件処理”の違いについて探る。(ダイヤモンド編集部 新井美江子)

SMBC日興が追徴金44億円の有罪判決へ
相場操縦の罪は重いのに「引責辞任なし」の理由

 三井住友フィナンシャルグループ(FG)傘下のSMBC日興証券は2月13日、金融商品取引法違反で起訴された相場操縦事件について、東京地方裁判所から罰金7億円、追徴金44億7114万円の有罪判決を受けた。

 相場を意図的、人為的に操作する相場操縦は、健全な市場形成を阻害し、投資家に不測の損害を与えることになるため金商法で固く禁じられている。今回はそれを市場の公正さを保つ「ゲートキーパー(門番)」であるべき証券会社が潤沢な資金を利用して行ったとあり、厳しい追徴が命じられた。

 金融庁も昨年10月、日興に対し、相場操縦が起きた「ブロックオファー取引」(上場株式を大株主から一括で買い取り、時間外で転売する取引)の3カ月の業務停止を命じた他、三井住友FGにも日興の管理責任を追及して改善措置命令を下している。

 しかし金融庁の処分については、一見厳しいようで、実は「釈然としない」(メガバンク幹部)とされている部分がある。経営責任の問い方だ。

 日興と三井住友FGに行政処分が下った1年ほど前の21年11月、金融庁はみずほ銀行とみずほフィナンシャルグループ(FG)にも業務改善命令を下した。システム障害を相次ぎ発生させたみずほのガバナンスを、「言うべきことを言わない、言われたことだけしかしない姿勢」と強烈に評して話題となった、「あの」行政処分だ。

 その際みずほは、顧客への対応などにまごついたみずほ銀はもちろん、みずほFGのトップの首まで取られた。対して三井住友の相場操縦事件では、近藤雄一郎・日興社長が「再建に道筋を付けたところで身を引く」と“口約束”しているのみで、誰も即時辞任に追い込まれていない。この差に首をかしげる銀行関係者は多い。

 金融庁幹部は「経営責任をどういう形で明確化するかは、あくまでも個社の判断だ」と語る。だが、その判断に監督官庁である金融庁の意向が大いに反映されるのは、金融業界の“常識”だ。

 次ページでは、金融庁の対応の真意を探ると共に、トップの処遇に差を生んだ三井住友とみずほの“事件処理”の違い、そして金融庁の「さじ加減処分」で広がる波紋について追った。