なぜウィーン・フィルを選ぶのか
渋谷ゆう子 著
世界のトップ演奏家が研鑽を積んでウィーン・フィルでの演奏を望むのにはさまざまな理由があるが、音楽的側面から見れば、ひとつは歌劇場でのオペラ演奏が日常的に叶うこと、もうひとつにはウィーン・フィルというシンフォニックオーケストラでの演奏との両立が実現することだろう。
もちろん、ウィーン・フィルが持つ一流の指揮者との共演機会や世界中のホールでの演奏経験は、他のオーケストラではなかなか得られない。他の歌劇場付の管弦楽団では基本的にオペラかバレエの伴奏を行なうことが主で、交響曲の演奏機会は格段に少なく、一般的なオーケストラに所属しているとオペラを演奏する機会がほとんどない。
日本のオーケストラでもそれは同じで、「オペラがやりたいから東フィル(東京フィルハーモニー交響楽団)に入った」という奏者がいるくらいだ(東フィルは新国立劇場で常にバレエやオペラ演奏を担当している)。
また、言うまでもないが、ウィーン・フィルに所属するというのは奏者自身が抜群の知名度とブランド力を持つということであり、その肩書きによってマスタークラスやソリストとしての他の仕事につながるポジションを手に入れやすくなる。
これは奏者にとって経済的にも社会的にも大きなメリットのひとつだろう。そうした数多くの魅力的な要素がウィーン・フィルにはある。狭き門だが、それを突破したいと願う奏者が世界中から集まる所以である。