デザインをビジネスに埋め込み、顧客価値を上げる

――現在は、デザインセンターが中心になってDXを担っているのでしょうか。

 全社的なDX推進組織としては、田中が組織長を務める全社横串のグループプラットフォーム組織「デジタル戦略部」が2020年に発足しました。この組織の機能は「お客さまに提供するデジタルサービスの質の向上」と、「デジタル人材の育成」の二つで、デザインセンターはどちらにも参画しています。前者については、デザイナーが各BUのサービス開発に伴走して価値創出活動に取り組んでいますし、後者についてはデザインセンターからデザイナーを10人ほどデジタル戦略部に派遣してデザイン思考やアジャイルの啓蒙・教育に当たっています。

デザイナーに求められる、自己を変革し、拡張する力Photo by ASAMI MAKURA

――デザインの拡大領域での成果はいかがでしょうか。

 事業部門との連携が深まったことで、デザイナーがどんな部署でも役に立つという認識が広がり、結果、デザインの意義に対する理解も進みつつあります。特に評価が高いのは「可視化」の部分です。新しいサービスのPoC(概念実証)を回すにも、デザイナーが関われば「魅力あるプロトタイプ」が作れるので、お客さまからきちんとした反応が得られて、検証の精度とスピードが上がります。

 アイデア出しの部分でも、観察して、インサイトを得て……というプロセスを踏むのでアウトプットの質が上がります。各BUからも「この製品のデザインを良くしたい」といった相談に加えて、「こんな価値を提供したいから知恵を貸してほしい」といった相談が増えました。

――事業開発のより上流からデザインが入っていくイメージですね。

 シーズ活用の視点で顧客を探索したり、価値を上げるような活動も増えています。従来の製品・サービスのデザインから拡張した事例としては、2020年にオープンしたワークプレイス「3L」があります。体育館などを備えたレクリエーション施設をフルリノベーションしたプロジェクトで、リコーの創業の精神「三愛(人を愛し、国を愛し、勤めを愛す)」に基づいて、3L(3LOVE)を感じられる場に再生させたものです。建物や形を作るというより、コンセプト設計への協力や、社内外の人やクリエイターをつなぐ役割をデザイナーが参加して実践しました。

――経営との関係の変化はいかがでしょうか。

 かなり近づいてきたと感じます。あらゆる製品のコモディティー化が進む中、もはや性能や機能だけで差別化するのは難しい。体験にフォーカスして使い心地や感性に訴える部分をいかに作っていくかが経営視点でも非常に重要です。「デジタルサービスの会社」になるというなら、非デザイナーを含む全員が「デザイン的な活動」に取り組む必要がある。デザインセンターには、「デザイン思考」の教育だけでなく、「顧客価値や顧客経験を上げる」という、より本質的なデザインマインドを浸透させる先導役であることが期待されていると思います。

デザイナーに求められる、自己を変革し、拡張する力Photo by ASAMI MAKURA