第三者の専門家としての医者の役割

西:医療者はおそらく、まず本人に「あなたは今死に向かっているんですよ」と伝えるでしょう。当然、夫からは「妻に何でそんなひどいことを言うんだ!」と怒られるけれど、そうでもしなければ2人の関係は先に進めません。あくまで第三者として冷静に「今後はこうなっていきます」と伝え、「どうしていけばいいでしょう」と問う。

 医療者のそうした刺激をきっかけに、帰宅後に「いやあ今日の先生ひどかったね」と愚痴りながら、「でもさ、実際この先どうしたい?」と、きょうだいなど夫以外の家族が聞くような状況が作れれば、一歩前進するように思います。

たられば:面白いですね。機能としての医療者であろうとしているわけですよね。介入するというよりは、2人の関係性を前に進めるために自分を使ってくださいと。

西:そうですね。

たられば:僕は光源氏の気持ちもよくわかるんです。自分の死はいい。自分がいずれ死ぬことはわかっている。ずっと共に過ごしてきた最愛の人が死ぬことのほうがずっとリアルに感じるし、とても受け入れられないと頑なになってしまう。その気持ちはわかる。

 だとしたら、現実は第三者から突きつけてもらうのがベストですよね。現代でそれを説得力を持って伝えられるのは、やはり科学的に正確な未来予測ができる医療者しかいない。

西:別に僕ら医者は受け入れられなくていいんですよ。受け入れてほしいなんて思っていません。本人が攻撃されたり苦しい思いに陥ったりしないようにするのが役目ですから。面談では、夫としてのやるせない思いをバーっと吐き出してもらって構いません。

 そのとき我々が注意しているのは、医者を攻撃させないこと。ご家族としては「お前が何とかしないから、俺の妻が大変なことになっているんだろう」という方向に行きがちですが、そんな攻撃を受け続けていては、こっちの身が持ちません(笑)。

たられば:それはそうでしょうね。無理ですよ。

西:ただ、そういうとき「僕が悪いんじゃないんですよ!」と対決姿勢をとると火に油を注いでしまうので、うまーく「そうですよねえ」と流しながら、悪いのは目の前の医療者じゃなく病気のほうなのだ、と気づいてもらえるようにしますね。

たられば:なるほどねえ。

たられば(編集者)
古典文学から漫画や政治問題まで、さまざまなツイートで人気を得ており、フォロワー数は20万人を超える。本業は編集者。
西 智弘(にし・ともひろ)
川崎市立井田病院 腫瘍内科 部長。一般社団法人プラスケア代表理事
2005年北海道大学卒。室蘭日鋼記念病院で家庭医療を中心に初期研修後、2007年から川崎市立井田病院で総合内科/緩和ケアを研修。その後2009年から栃木県立がんセンターにて腫瘍内科を研修。2012年から現職。現在は抗がん剤治療を中心に、緩和ケアチームや在宅診療にも関わる。また一方で、一般社団法人プラスケアを2017年に立ち上げ代表理事に就任。「暮らしの保健室」「社会的処方研究所」の運営を中心に、地域での活動に取り組む。日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医。著書に『だから、もう眠らせてほしい(晶文社)』『社会的処方(学芸出版社)』などがある。

(※本原稿は、2022年8月20日、21日に開催されたオンライン配信を元に記事化したものです)