「人間の悩みはすべて対人関係の悩みである」と断言し、その悩みに明確な答えを与えてくれる「アドラー心理学」。日本では無名に近かったこの心理学を分かりやすく解説し、世界累計1000万部超のベストセラーとなっているのが『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』の“勇気シリーズ”です。
この連載では、『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』の著者である岸見一郎氏と古賀史健氏が、アドラー心理学の教えに基づいて、皆さんから寄せられたさまざまな悩みにお答えします。
今回は、自分を変えたいのになかなか実行できない方からのご相談。岸見氏と古賀氏がアドラー心理学流「やる気スイッチ」の押し方をズバリ回答します。(構成/水沢環)

『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』の著者があなたの悩みに答えますイラスト:羽賀翔一

今回のご相談

 頭では分かっているのに実行に移せないことが多くて困っています。今年こそ思い切り自分を変えたいのですが、アドラー心理学で「やる気スイッチ」は見つけられますか?(40代・女性)

「アドラー心理学流」回答

古賀史健 変わりたいけど変われない。これはアドラー心理学で言うと「目的論」に関係するところですね。ただ、「変わりたい」とおっしゃる方って、変わることを目的化しすぎている気がするんです。たとえば、人類は猿と共通の祖先からはじまって、人間に進化していったというダーウィニズムの考え方がありますよね。この考えに立っていると、人間はずっと変化し、進化していかなければならないと思いがちです。

 しかし一方で、シーラカンスやカブトガニといった何億年も姿が変わらない生きものもいる。彼らはけっして進化をサボっていたわけではなく、変わらないことにメリットがあったから、それを選択してきたんです。

 これと同じで、まずは「なにがなんでも変わらなきゃ」という思い込みを一度外して考えてみるべきだと思います。変わることにどれだけのメリットがあるのか、変わらないままでいたらどんなメリットがあるのか。あるいは、変わることによって失われてしまうものはあるのか。

 もしも仕事を変えたとしたら、住む場所や、趣味の時間、家族の時間など、なにか今の生活を構成しているものが失われるはずですよね。そうやって失われるものが自分にとってすごく大事なものならば、変えずに守るほうがいい。無理をしてまで変わる必要はないんじゃないかと僕は思います。

 変化や向上を目的にしすぎずに、真剣に、頭を落ち着けて「変わるメリット」「このままの自分でいるメリット」を考えてみてほしいです。

岸見一郎 「変われない」と言う人は、変化が怖くて「変わりたくない」というのが本音なのかもしれません。なぜなら、変化した後にどうなるか分からないから。未知で未経験のことが襲ってくるのが怖いのです。

 「やる気スイッチ」はどこにあるか。それはどこにでもあります。「見つからない」と言っている人は、ただ押したくないだけ。やる気を出して頑張ってみて、結果が出るのが怖いのです。

 でも、とりあえずスイッチを押してみましょう。思い通りの結果が出なかったら、またその時点で考えればいいのですから。スイッチを押すかどうかは「勇気」の問題です。

 それから、大きすぎる目標を立てないことも大事です。思いっきり変わろう、などと考えない。大きく変化しようと意気込むと、スイッチを押すのにも大きな勇気が必要になってしまいます。

 なによりも大切なのは実行することです。小さな目標を立てて、まずはやってみる。そして少しの変化を喜ぶというのがいいのではないでしょうか。

(次回もお楽しみに)