「1日3食では、どうしても糖質オーバーになる」「やせるためには糖質制限が必要」…。しかし、本当にそうなのか? 自己流の糖質制限でかえって健康を害する人が増えている。若くて健康体の人であれば、糖質を気にしすぎる必要はない。むしろ健康のためには適度な脂肪が必要であるなど、健康の新常識を提案する『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』(萩原圭祐著、ダイヤモンド社)。同書から一部抜粋・加筆してお届けする本連載では、病気にならない、老けない、寿命を延ばす食事や生活習慣などについて、「ケトン食療法」の名医がわかりやすく解説する。

体に良さそうなヨーグルトは、健康にどこまで効果があるのか?Photo: Adobe Stock

腸内細菌叢は
3歳までに形成される

 そもそも腸内細菌が形成されるのには、遺伝と環境が大きく影響しています。

 私は、京都大学大学院の明和政子教授とバイオベンチャーである「サイキンソー」と協力して子ども向けの検査システム(Mykinsoキッズ)をつくるお手伝いをしたことがあります。1000人以上のデータをもとに解析した結果、海外の報告と同様に、大体3歳までに個人の腸内細菌叢は形成されることがわかりました。

 調査して驚いたのは、親子でも菌叢が似ていない場合もあれば、兄弟でも似ている場合と似ていない場合があることでした。

 では、腸内細菌叢は、どうやって形成されるのか?

 基本的には、母親の腸内細菌叢を譲り受けることになります。生まれて母親のおっぱいを飲み、そして、みんなと一緒に楽しくご飯を食べる。その過程で、家族や所属する集団の腸内細菌叢を共有していくのです。

「同じ釜の飯を食った仲間」というとノスタルジックな響きですが、最新の科学は、むしろその重要性を示しているのです。

腸内細菌叢は、民族差や個人差が大きい

 腸内細菌の話でよく聞くのは、乳酸菌などが入った食品、特にヨーグルトのような乳製品がおすすめだとよく言われることです。

 ただ、腸内細菌叢というのは、民族差や個人差がかなり大きいことがわかってきました。つまり、乳製品を常に摂取してきた欧米人とはちがい、日本人がたくさん乳製品をとっても、乳製品由来の腸内細菌叢が占める体にはなりにくいのです。

 実は、民族ごとに適した食事内容があることは、明治時代に東京医学校(東京大学医学部の前身)の教授として日本を訪れたドイツ出身のベルツ先生も指摘されています。

 日本人は代々、お漬物やお豆腐、納豆に醤油と、植物性由来の発酵食品を多くとってきており、それらの先祖から受け継いだ菌が、いつの間にか腸内を占めているほうが健康にはよいのです。

 よく言われる乳酸菌にしても、実は、植物性由来の乳酸菌と動物性由来の乳酸菌があり、日本人によくなじむのは、植物性由来、つまりお漬物のほうがいいということもわかっています。

 以前も指摘した海藻や海苔ですが、日本人はこれをうまく栄養にできますが、欧米人は栄養にできない可能性が高いのです。

 なぜなら、日本人からは海藻を分解する腸内細菌は検出されても、欧米人からは検出されないからです。この理由としては、海苔や海藻をよく食べる日本の食生活が影響しているのではと考えられています。

 前述したように、腸内細菌叢は3歳くらいで基本的に決定してしまい、多少は変化があるかもしれませんが、基本は変わりません。

 ひょっとしたら、欧米の人が、赤ちゃんの頃から日本に移住すれば、和食の食材に対応する可能性もあるかもしれませんが、今のところそのようなデータはありません。

 理想的な腸内細菌叢をつくる方法としては、便移植が真剣に考えられ、実行されて効果が出ています。それくらいやらなければ、腸内細菌叢は先祖伝来のものから、なかなか変化しないわけです。

腸内細菌叢とケトン体には、深い関係がある

 ヨーグルトが悪いとは言いませんが、腸内細菌として、ヨーグルト由来の菌を腸に定着させられる人は、日本人には少ないかもしれません

 実は、腸内細菌叢とケトン体には深い関係があり、最近の研究では、ケトン体が酪酸産生菌を腸内で増やしていく可能性も報告されています。

 様々な意見や考え方があるでしょうが、この腸内細菌叢に関して私が考える結論を言えば、「日本人は、ご飯、お味噌汁、お漬物、納豆などの発酵食品で、十分な腸内細菌叢がつくれる」ということです。

萩原圭祐(はぎはら・けいすけ)
大阪大学大学院医学系研究科 先進融合医学共同研究講座 特任教授(常勤)、医学博士
1994年広島大学医学部医学科卒業、2004年大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了。1994年大阪大学医学部附属病院第三内科・関連病院で内科全般を研修。2000年大学院入学後より抗IL-6レセプター抗体の臨床開発および薬効の基礎解析を行う。2006年大阪大学大学院医学系研究科呼吸器・免疫アレルギー内科助教、2011年漢方医学寄附講座准教授を経て2017年から現職。2022年京都大学教育学部特任教授兼任。現在は、先進医学と伝統医学を基にした新たな融合医学による少子超高齢社会の問題解決を目指している。
2013年より日本の基幹病院で初となる「がんケトン食療法」の臨床研究を進め、その成果を2020年に報告し国内外で反響。その方法が「癌における食事療法の開発」としてアメリカ・シンガポール・日本で特許取得。関連特許取得1件、関連特許出願6件。
日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会、日本臨床栄養代謝学会(JSPEN)などの学会でがんケトン食療法の発表多数。日本内科学会総合内科専門医、内科指導医。日本リウマチ学会リウマチ指導医、日本東洋医学会漢方指導医。最新刊『ケトン食の名医が教える 糖質制限はやらなくていい』がダイヤモンド社より2023年3月1日に発売に。