「『賃貸と持ち家、結局得なのはどっちですか』という質問は非常に多いのですが、はっきり言うと、コストに関しては同程度と考えて良いでしょう。むしろ目を向けたいのはリスクの違いです」
そう話すのは『図解 会社員のためのお金のキホン』(KADOKAWA)の著者で、ファイナンシャルプランナーの井上ヨウスケ氏だ。
「賃貸のメリットは、なんといっても身軽さ。収入や家族の人数、通勤や子どもの通学に合わせて、好きな住居に住み替えていくことができます。今回のコロナショックのような不測の事態が発生し、収入が大きく下がった場合、ローンを組んでいると逃げ道がありません。しかし、賃貸であれば、より安い住居に引っ越すこともできます。住宅ローンに縛られないため、転職などで新天地に行きたいという場合も決断しやすい。地震などの災害発生時、もし住居が被害を受けても、引っ越せば良いだけなので気楽です」
変化に柔軟に対応できるところが賃貸の良い点だが、気になるのは住宅の質だ。
「特にファミリー向け賃貸は少ないので、子どもがいる場合は希望する物件に住めない可能性があります。賃貸物件は高気密・高断熱のような高性能な住宅も少ないので、質にあまり期待できないのも難点です。僕も今は一戸建ての賃貸ですが、断熱性が弱く、夏は暑く冬は寒い…。こうした住宅は冷暖房費が高くなるという欠点もあります。また老後に部屋を借りようと思っても、高齢だとどうしても選択肢が狭まってしまいます」
その点、持ち家であれば、ローン完済後は住居を確保できるという安心感がある。
「住宅ローンが終われば、賃貸よりも住居費を抑えることができます。ただ完済後も費用が全くかからないわけではなく、維持費は必要。毎年の固定資産税、マンションであれば毎月の管理費や修繕積立金、戸建てなら修繕に100万円単位のお金がかかります。住宅ローンに関する金利や購入時の諸費用を考えると、かかるコストは賃貸と同程度と申し上げたのは、こうした理由なのです。また、災害などで住宅が損害を受けた場合も、ローンは残るというリスクがあります」
さらに前述のように金利引き上げの問題もある。ローンを組んでいる以上は、金利によって負担額が増える可能性もないとはいえない。
好きな場所に気楽に住めて移動しやすい一方で住宅の質が低い可能性のある賃貸、デザイン性や耐震性など性能にこだわった住居を確保できるが住宅ローンや維持費などに縛られる持ち家。かかるコストに大きな差がないのだとしたら、それぞれのライフスタイルに合ったものを選ぶのがベストだろう。