長寿化で懸念される「家の耐久性」
賃貸と持ち家の組み合わせも考えるべき

 とはいえ日本の「マイホーム」信仰はまだまだ根強い。総務省の「住宅・土地統計調査」では、2018年の持ち家率は61.2%。同調査によると1978年から40年間、持ち家比率は60%前後を維持していて、特に大きな変動はないようだ。

 持ち家を選択する多くの人にとって、家の資産価値は重要な要素だろう。なかには最初から売ることを視野に入れて、住まいを決定する人もいる。しかし、井上氏は「住宅は消費財として考えたほうがいい」と言う。

「家を買おうとすると『将来売却できるように駅近の物件』『今は物件価格が高いから買い時じゃない』など、いろいろな意見が入ってきます。それらを否定はしませんが、僕個人の意見としては、家は車のように消費財として考えるほうがシンプルに考えられ、結果的に満足度も高まるのではないかと思っています」

 持ち家は資産になる、といってもそれは限られた土地や物件の話。売却前提で購入したものの買い手が付かなかった場合、税金だけが余計にかかってしまうケースも考えられる。

「住宅はあくまで自分や家族が住むための箱。損得よりも、住みたい家や場所を第一に考えると、シンプルに判断できます。『今は物件が高いから買い時じゃないですよね?』という相談も受けますが、あまり気にしなくて良いと思います。5年待てば値段が下がるという保証はありません。どんな時代であれ、住宅ローンは現役時代に完済できる無理のない範囲で物件を選ぶのがセオリーです」

 しかし人生100年時代に突入した現代では、購入のタイミングは別の意味でよく考えなければいけない問題だという。

書影『図解 会社員のためのお金のキホン』(KADOKAWA)『図解 会社員のためのお金のキホン』(KADOKAWA)
井上ヨウスケ 著
定価1595円

「これまで会社員が住宅ローンを組む場合は、30代で35年ローンを組んで定年までに完済…というのが王道でした。しかし、最近は家を買うのが早すぎると老後まで家が持たないというリスクが出てきています。30代で購入した家は80代になれば築50年。そこから10年、20年と住み続けられるのかどうか。日本の住宅の大半はドイツやフランスのように何百年も使い続けるつもりで建築されていないというのが大きな問題なのです」

 早く購入すればするほど、老後まで住宅を維持するためにはリフォーム代や修繕費がかかり、出費が増えてしまうわけだ。

「長寿化と家の耐久性を踏まえると、現役中はある程度の年齢まで賃貸で過ごし、50代以降に新築もしくは築浅の物件を買うのもありだと思います。頭金をためておけば、購入する際にローン期間も短くできて、住宅のリフォーム代も減らせます」

 長寿化が進むなかで、自分の寿命と家の寿命を考えながら、今後は家選びをしていく必要があるようだ。賃貸か持ち家かという二択だけでなく、賃貸と持ち家を上手に組み合わせた方法が、人生100年時代の賢い住宅の選び方になっていくかもしれない。