「見た目は変で、しゃべりも下手、お笑い芸人としての才能もない」と思いこみ、コンプレックスのかたまりだったスリムクラブ・内間政成さんは、そんな自分を人に知られないように、自分の本心を隠し、見栄を張って、いつわりの人生を送ってきました。しかし、それはどうしようもなく苦しかった。自分で自分を否定しているようなものですから。
ある出来事をきっかけに、内間さんは自分自身と向き合い、自分という存在を少しずつ受け入れられるようになっていきます。その結果、何が起きたのか。今まで自分の欠点だと思い込んでいたことが、そうじゃないことがわかってきました。自分の欠点を「欠点だ」と決めつけているのは、他の誰でもない、自分自身だったのです。
「僕はカッコ悪い」「僕は人をイラつかせる」「僕は恐れ過ぎている」「僕はすぐ調子に乗る」「僕は怠け者」と、自分の欠点をさらけ出せるようになった内間さんはいま、ストレスフリーの時間を楽しそうに生きています。そんな内容の詰まった本が、内間政成さんの書籍等身大の僕で生きるしかないのでです。無理やり自分を大きく見せるのではなく、等身大の自分を受け入れれば、人生は好転する。そのためのヒントを本書からご紹介します。(撮影・榊智朗)

他人と比べてしまう悪い癖が消え去る「たったひとつの考え方」

他人と比べてしまう「僕の悪い癖」

 僕の悪い癖は、すぐ他人と比べてしまうことです。そして他人と比べてしまうと必ず自分の方が劣っていると思ってしまいます。でも分かってきたのは、どんなに不満なことでも受け入れることができれば、それまでが幻だったかのように不満が消えていくということです。腕の毛もそうでした。

 僕の腕の毛は、長くて濃いです。そのことを認識し始めたのは、小3の頃です。明らかに他人と形態が違いました。でもまだ中1の頃までは良かった。なぜなら産毛(うぶげ)だったからです。社会人でいうとまだ試用期間で半人前です。しかし優秀だったのでしょうか。その後、本採用になってしまいました。そうなると一気に羞恥心(しゅうちしん)に襲われ、いつもの隠蔽(いんぺい)願望が生まれます。

 そんなときに週刊誌の広告で知ったのが「パパイヤ成分」。この成分は毛根を破壊し、毛の成長を止めるため、脱毛に適しているそうです。早速この成分が入っている脱毛液を購入し、丹念にたっぷり両腕に塗りました。そして美肌になった自分をワクワクと想像しながら時を待ちます。しばらくすると脱毛が始まりましたが、予想以上にまばら。思てたんとちゃう! でもまっ、こんなもんかと、放置してると数週間後に悲劇が起きたのです。それは、もしかしたら「パパイヤ成分」が毛根の栄養になったのかもしれません。まさかの2倍になって戻ってきたのです。

「おー! 神よ! 何という仕打ちだ!」。僕の行為は神への冒涜(ぼうとく)だったのでしょうか。でも僕は、これぐらいのことでは諦めません。基本に戻って、シンプルに剃ろう。でも剃るにしても一工夫加えようと、一回脱色してから剃りました。僕の中では、「念には念を」という気持ちでしたが、それを聞いた人たちは口を揃えて、「脱色いらんだろ!」と言います。でもとにかく一安心です。

 思い返してみると、僕は毛に悩まされてばかりの人生でした。脇の毛や下の毛もそうです。僕は成長が早く、下の毛は小5の頃に顔を出してきました。

 そんなときに訪れたのが宿泊研修。かなり楽しみでしたが、一つだけ不安なことがありました。それは集団入浴です。果たしてみんなのはどういう状態なのだろうか。でも劣等感のある僕は聞けない。何となく探ってもいまいち把握できませんでした。

 どんどん当日が迫ってきて、不安も高まっていきます。そしてとうとう前日。僕は賭けに出ることにしました。よし、剃ろう。僕は少し緊張しながら、親父が髭(ひげ)剃りのときに愛用しているT字剃刀(かみそり)で剃りました。親父に謝らないといけませんね。

 そして身軽になった僕は当日入浴に臨むのですが、そこで自分の決断が裏目に出たことを思い知らされることになります。それは、みんなのは自然でうっすらなのに対して、僕のは人工的で綺麗過ぎたのです。大浴場の高窓から差す月明かりで輝くほどでした。ただ幸いなことにみんなはしゃいでいたので、そのことを指摘する者は誰もいませんでした。

思わずついた僕の「あだ名」

 それを経て中学生になった僕は、バスケ部に入部しました。楽しく順調に過ごしていたのですが、初めての練習試合のときにあることに気づきました。それは、練習ではTシャツを着るのですが、試合ではユニホームを着なければならないということです。

 ユニホームはタンクトップ。ということは、僕の脇がお披露目になります。それはマズイぞ。部室での着替え中に、こっそりみんなを確認してみると、みんなの脇は抽象画なのに僕のは具象画です。試合でいうとダブルスコアもの差があります。それが洩れてしまったら絶対にからかわれる。どうにかしなければ。でも今の僕に何ができるのか。とうとう試合が始まり、僕も出場することになりました。とにかく試合に集中しよう。しかしそれができない。上の空の僕の動きに顧問からは指示が飛んできます。

「内間! ハンドアップしろ!」と。先生、それをしたいのですができないのです。僕にとってその姿勢は、死刑宣告です。もちろん分かってもらえません。シュートチャンスでボールを貰っても迷わずパスを出します。何点損したでしょうか。もはやこれはバスケではなく、脇を見せないゲームです。でもとうとう恐れていた場面が訪れてしまいました。どう考えてもシュートを打てるのは僕だけなのです。仕方なく打ちました。

 でも、打った瞬間、すぐにシュート前の姿勢に戻る超クイックモーションで。「何だ、そのフォームは! 誰が教えた!?」と顧問の怒号が響き渡りました。試合には勝ちましたが、僕のプレーは散々で、その上僕の隙を見逃さなかったメンバーがいました。その日から僕のあだ名は、ウチマ+ワキで「ワチマー」になりました。

僕の腕の毛を女性が触ってくれるようになり、おいしい思いをするようになった

 こんなふうに自分のネガティブな部分を隠しながら生きていっても限界があります。自然には勝てないということです。腕の毛だってそうです。あんなに完璧に処理したはずなのに復活してきます。しかもパワーアップして。それを見て僕は疲れました。ありのままで生きてみたい。ただここで一つ言いたいのですが、決して脱毛を否定しているのではありません。僕のようにありのままの自分を受け入れずに隠蔽に走るのは生きづらいということです。

 僕はこの毛と共に生きてみたいと思いました。そう思えると不思議ですね。自分を否定していたのはまぎれもなく自分自身で、それは自分自身に決定権の力があるということです。

 そう思えるようになると現実も変化してきました。僕の腕の毛を喜ぶ人が増えたのです。キャバクラでもそうです。

「何? この腕毛! すごーい、ふさふさしている!」と平気で触ってきます。そしてたまに少し延長もしてもらえます。

 だから僕はたまに「ありがとう」と腕の毛を撫でてあげています。

他人と比べてしまう悪い癖が消え去る「たったひとつの考え方」内間政成(うちま・まさなり)
芸人。スリムクラブ ツッコミ担当
1976年、沖縄県生まれ。2浪を経て、琉球大学文学部卒業。5~6回のコンビ解消を経て、2005年2月、真栄田賢(まえだ・けん)とスリムクラブ結成。「M-1グランプリ」は、2009年に初めて準決勝進出。2010年には決勝に進出し準優勝。これをきっかけに、人気と知名度が上昇。「THE MANZAI」でも決勝進出。2021年1月、「2020-2021ジャパンラグビートップリーグアンバサダー」に就任。