「たばこやお酒をやめたいのにやめられない」。そんな悩みをお持ちの方、多いと思います。健康法を知っているだけでは健康にはなれません。本当に正しいとされている健康法を、きちんと行動に移し、毎日無理なく続けるためには技術が必要です。本連載の「健康になる技術」とは、健康でいるために必要なことを実践するスキルです。簡単に言うと、健康になるために「What(何)」を「How(どのように)」行ったら良いのか、自分の環境や特性(弱点・強み)に合わせて実践する技術のこと。本連載では、話題の著書健康になる技術 大全の著者、林英恵が「食事」「運動」「習慣」「ストレス」「睡眠」「感情」「認知」のテーマで、現在の最新のエビデンスに基づいた健康に関する情報を集め、最新の健康になるための技術をまとめていきます。健康のための習慣づくりに欠かせない考え方や、悪習慣を断ち切るためのコツ、健康習慣をスムーズに身につけるための感情との付き合い方などを、行動科学やヘルスコミュニケーションのエビデンスに基づいて、丁寧にご紹介していきます。今回は、「たばこやお酒をやめられない」と悩む人を救う「大切な考え方」についてです。(写真/榊智朗)
監修:イチローカワチ(ハーバード公衆衛生大学院教授 元学部長)

「たばこやお酒をやめられない」と悩む人を救う「大切な考え方」Photo: Adobe Stock

やめたい行動は危ない状況ごと避ける

 やめたい行動について基本的なことは新しい習慣づくりと同様に、環境の設定が大切です(*1,2)。やめたい習慣は、その習慣が起きやすい状況をできるだけ丸ごと避けましょう(*1,3,4)。

 たばこを吸ってしまう、お酒を飲みすぎてしまう、テレビを見ながらお菓子を食べすぎてしまう、夜更かししてしまうなど、誰にでも何らかのやめたい習慣があると思います。そのやめたい習慣は、どのような状況で起こりますか? 何か、その行動が起きるきっかけはありますか? できるだけ詳しく思い出してください。

 また、思い立った時にすぐ行動したり、それを見てある行動を思い出すようなサインのことを、専門用語でアクションへのキュー出し(cue to action・キュー トゥー アクション)」と言います(*5)。新しい習慣づくりと同様、やめたい行動に関しても、その行動や悪習慣のきっかけとなっているものを、生活から削除することが大切です。

お店のある通りを歩かなくしたり、道の反対側の通りを歩き、店に近づきにくくする

 例えば、体に良くないものをやめたい人が、自身の生活を振り返ってみると、勤務先から自宅に帰る際にふらっとコンビニエンスストアに寄ってジャンクフードを買ってしまうことがわかったとします。

 この場合の行動のキュー(合図)は、コンビニエンスストアの前を通ることです。行動を変えるには、そのお店のある通りを歩かなくしたり、道の反対側の通りを歩き、店に近づきにくくしましょう(*2)。

 他にも、喫煙している人がたばこをやめる場合、自分の生活からたばこをなくすだけでは不十分です。灰皿やライターなどが行動の合図(キュー)となってしまうことがあります

 これらのものが自動的にたばこが吸いたくなるような環境を作り出し、禁煙の失敗となることも多いので、こういった「たばこ」に関連するものをすべてなくしましょう。このように、行動が起きやすい状況自体を避けることで、新たな習慣の機会が生み出されるといわれています(*2,3,4)。

無意識に行っていることは、あなたの意思ではなく、環境の力がさせる業

 行動を変える合図は「もの」だけではありません。昔、禁煙の研究プロジェクトで、喫煙者にインタビューを行ったことがあります。その時に、よく「1人だと吸わなくていられるけれど、喫煙者の友だちとの飲み会だと吸ってしまう」という声を聞きました。

 この場合は、飲み会自体を避けられればベストですが、そうもいかない場合は、禁煙のお店を選ぶ、たばこを吸わない友だちを誘って吸えない状況を作ってみたりすると良いでしょう。お酒とセットになるとたばこを吸いたくなるのは、お酒の力だと思い込みがちですが、それは環境の力でもあります。

 実際、イギリスでパブや公共の場所が全面的に禁煙になった時、42%の人が、たばこを吸えないことを知りながらも、パブで間違えてライターに火をつけようとしたことが報告されています(*1,6)。

 このように、状況が変わっているのに、自動的に普段の行動をとってしまい、意図しない行動をとることをアクションスリップ(action slip)」と呼びます(*1,7)。特に、お酒を飲んでいる時にたばこを吸う人は、たばことお酒が行動としてセットになっているので、このような場面に遭遇すると、何も考えずにライターに火をつけてしまいがちです(*1)。吸えないとわかっているにもかかわらず!

 これは、たばこに限りません。食後のアイスクリーム、夕食後のソファでのテレビ視聴とポテトチップスなど、無意識に行っていることは、あなたの意思ではなく、環境の力がさせる業でもあります。ありとあらゆる方法で、アクションスリップが起こる状況を作り出さないように考えてみてください。

【参考文献】

*1 Roberto CA, Kawachi I. Behavioral economics and public health. Oxford, U.K.: Oxford University Press; 2015.
*2 Lally P, Gardner B. Promoting habit formation. Health Psychol Rev. 2013;7(S1):S137-58.
*3 Verplanken B, Wood W. Interventions to break and create consumer habits. J Public Policy Mark.2006;25:90-103.
*4 Wood W, Tam L, Witt MG. Changing circumstances, disrupting habits. J Pers Soc Psychol. 2005;88(6):918-33.
*5 Wood W, Quinn JM, Kashy DA. Habits in everyday life: thought, emotion, and action. J Pers Soc Psychol. 2002;83(6):1281-97.
*6 Orbell S, Verplanken B. The automatic component of habit in health behavior: habit as cue-contingent automaticity. Health Psychol. 2010;29(4):374-83.
*7 Norman DA. Categorization of action slips. Psychol Rev. 1981;88(1):1-15.

(本原稿は、林英恵著『健康になる技術 大全』から一部抜粋・修正して構成したものです)

「たばこやお酒をやめられない」と悩む人を救う「大切な考え方」林 英恵(はやし・はなえ)
パブリックヘルスストラテジスト・公衆衛生学者(行動科学・ヘルスコミュニケーション・社会疫学)、Down to Earth 株式会社代表取締役、慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート特任准教授、東京大学・東京医科歯科大学非常勤講師
1979年千葉県生まれ。2004年早稲田大学社会科学部卒業、2006年ボストン大学教育大学院修士課程修了、2012年ハーバード大学公衆衛生大学院修士課程を経て、2016年同大学院社会行動科学部にて博士号取得(Doctor of Science:科学博士・同学部の博士号取得は日本人女性初)。専門は、行動科学・ヘルスコミュニケーション、および社会疫学。一人でも多くの人が与えられた寿命を幸せに全うできる社会を作ることが使命。様々な国で健康づくりに携わる中で、多くの人たちが、健康法は知っていても習慣づける方法を知らないため、やめたい悪習慣をたちきり、身につけたい健康法を実践することができないことを痛感する。長きにわたって頼りになる「健康習慣の身につけ方」を科学的に説いた日本人向けの本を書きたいと思い、『健康になる技術 大全」を執筆した。
2007年から2020年まで、外資系広告会社であるマッキャンヘルスで戦略プランナーとして本社ニューヨーク・ロンドン・東京にて勤務。ニューヨークでの勤務中に博士号を取得。東京ではパブリックヘルス部門を立ち上げ、マッキャンパブリックヘルス・アジアパシフィックディレクターとして勤務後、独立。2020年、Down to Earth(ダウン トゥー アース)株式会社を設立。社名は英語で「実践的な、親しみやすい」という意味で、学問と実践の世界を繋ぐことを意図している。現在は、国際機関や国、自治体、企業などに対し、健康に関する戦略・事業開発、コンサルティングを行い、学術研究なども行っている。加えて、個人の行動変容をサポートするためのライフスタイルブランドの設立準備中。2018年、アメリカのジョン・ロックフェラー3世が設立したアジアソサエティ(本部・ニューヨーク)が選ぶ、アジア太平洋地域のヤングリーダー“Asia 21 Young Leaders”に選出。また、2020年、アメリカのアイゼンハワー元大統領によるアイゼンハワー財団(本部・フィラデルフィア)が手がける、世界の女性リーダー“Global Women’s Leadership Fellow”に唯一の日本人として選ばれる。両組織において、現在もフェローとして国際的な活動を続ける。
『命の格差は止められるか ハーバード日本人教授の、世界が注目する授業』(小学館)をプロデュース。著書に、『健康になる技術 大全」(ダイヤモンド社)、『それでもあきらめない ハーバードが私に教えてくれたこと』(あさ出版)がある。
https://hanahayashi.com/