ウソでしょ……返済不能な貸付金1億円に相続税5,500万円!?

 オーナー会社によくあることですが、オーナーとその家族が、銀行からではなく個人から資金繰りに出していた貸付金により、多くの不幸が生まれます。会社が倒産後、個人的な老後の資金まで使い果たし、路頭に迷った人を何人も見ました。

 銀行が資金提供をしなくなった会社では、個人がその会社へ貸し付けをする場合、合理的判断をすべきです。

 父個人の自分の会社への貸付金は1億円にのぼりました。そして父の財産を相続した私には、その貸付金にも相続税が課されることになりました。貸付金は税務上、当然に財産とみなされます。

 もし、父がほかの会社へ貸し付けた貸付金があれば、それを相続した私は、その会社に返済をお願いすればお金は戻ってくるはずです。しかし、父が貸し付けた相手は自分の会社で、しかもその平農林は債務超過です。返済不可能です。どうしようもありません。

「貸付金」1億円に対して、「相続税」は最高税率の55%が課せられました。5,500万円です。

 相続税とは、相続した財産があり、それに課される税金のはずです。税金を納めてもなにがしかの財産が残ることが期待できますが、この場合、入ってくるお金はゼロ円なのに、税金ばかりを納めなければならないという、なんとも納得のいかない「相続」となったわけです。

 相続時でも、返済不能なのだから「貸付金」の価値はゼロ円。よって税金を納める必要はない、と考えるこちらの理屈は、国税当局には通じませんでした。

 会社にお金を注ぎ込んでも回復できない、と考えることが常識的な判断なのです。

父が知り合いに貸したお金も財産に! 見舞金と訂正し、課税を免れる

「貸付金」といえば、父が個人として知人へ貸したお金も明らかになりました。私もこのことは以前から耳にしていました。父の友人のご長男が病気になり、友人は父に借金を頼みました。しかし、借金したご本人も長男の方もすでに亡くなっていました。

 理屈からすれば、「貸付金」を「相続」した私が、そのご遺族の方に借金の返済をお願いすればよいのですが、今さら言い出すわけにいきません。返済できる状態でもないようですし、そもそもこの借金についてはご家族もご存じないようです。父もお金が返ってくることは考えていなかったはずです。

 帳簿に「貸付金」と書いている以上、「財産」になってしまいますが、この場合、経理担当者は帳簿に「貸付金」と記載したものの、真意はお見舞金だった。つまり、差し上げたものだと主張したところ、国税庁は納得してくれました。少額でもあったからか、課税を免れることができたのです。

 何度も書きますが、私の周りには、不調な会社に、オーナー親族がお金を貸し、会社が倒産して親族が路頭に迷った例が多くあります。かつてお金持ちの跡継ぎとして活躍されていたある人に、「資金繰りのためにお金を貸してほしいと何度も言う息子にたくさん貸してしまったので、もう預金は何もないの」と、寂しそうに言われたことがありました。その人は、お元気な頃に活動されていた老人施設で亡くなられました。

 個人の資金を貸し出すことは見直すべきです。不調な会社にお金を注ぎ込んでも回復できない、と考えることが常識的な判断なのです。