「見た目は変で、しゃべりも下手、お笑い芸人としての才能もない」と思いこみ、コンプレックスのかたまりだったスリムクラブ・内間政成さんは、そんな自分を人に知られないように、自分の本心を隠し、見栄を張って、いつわりの人生を送ってきました。しかし、それはどうしようもなく苦しかった。自分で自分を否定しているようなものですから。
ある出来事をきっかけに、内間さんは自分自身と向き合い、自分という存在を少しずつ受け入れられるようになっていきます。その結果、何が起きたのか。今まで自分の欠点だと思い込んでいたことが、そうじゃないことがわかってきました。自分の欠点を「欠点だ」と決めつけているのは、他の誰でもない、自分自身だったのです。
「僕はカッコ悪い」「僕は人をイラつかせる」「僕は恐れ過ぎている」「僕はすぐ調子に乗る」「僕は怠け者」と、自分の欠点をさらけ出せるようになった内間さんはいま、ストレスフリーの時間を楽しそうに生きています。そんな内容の詰まった本が、内間政成さんの書籍等身大の僕で生きるしかないのでです。無理やり自分を大きく見せるのではなく、等身大の自分を受け入れれば、人生は好転する。そのためのヒントを本書からご紹介します。(撮影・榊智朗 初出:2023年3月26日)

気配りできない僕が「気配りの正体」について考えてみた。【書籍オンライン編集部セレクション】

相手に気配りができないから、できたときは異常に喜ばれる

 僕はよく「気配りがない」と言われます。自分では、しているつもりでもあるのですが、それでも言われます。「気配り」とは、一体何なのでしょうか? 一応ネットで調べてみると、「相手が求めていることを推測して、前もって行動すること」らしいですね。なるほど。僕はできていないです。

 僕は事あるごとに、嫁から「気配りがない」と指摘を受けます。挙げればキリがないのですが、近頃では、家でぼーっと窓から外の雨を眺めていると、仕事から帰宅した嫁に「何で洗濯物を取り込んでてくれないの?」とか。また、家族で初めての場所に車で出かけるときに、準備に時間がかからない僕は、先に後部座席でぼーっと座っていると、嫁に「何で目的先をナビ入力しておいてくれないの?」など。他にも、僕が焼きそばを作ったときに、具材の切られていない20cmくらいの豚ばら肉を箸で持って「食べる人のこと考えてる? 食べづらいんだけど」と、数々指摘を受けます。

 それにしても僕は、主にぼーっとしがちですね。今度は、逆に気配りをしたつもりでも、同じように指摘を受けたこともあります。それは、あるとき、このあと嫁が帰宅するので、嫁が鍵を入れて回す手間が省けるように施錠しないでいると、「不用心でしょ!」とか。

僕の気配りは空回りする

 また、台所に見覚えのないペットボトルの空ボトルが4本放置されていたので、捨てておくと「使うつもりで置いてあったんだけど!」など。他にも、コンロに濁り汁が入った鍋があったので、中身を捨て、洗っておくと「何で捨てるの!? 海老の出汁を取ってあったのに!」と、散々です。

 気配りがないと言われるより、気配りしたつもりの方が怒られています。それにしても僕は、主に捨てがちですね。

 またこれ以上に、自分でもやってしまった! と思った出来事もあります。それはある日、近所の飲食店の大将に「内間さん、炊いてあるご飯ですけど、余ったので貰います?」と聞かれたのです。そのとき僕は、貰った方が家計も楽になり、嫁も喜ぶだろうと思い、迷わず貰うことにしました。それはかなりの量で、ラップで包まれ、なんと枕くらいの大きさでした。こんなに余るものなの? と思いながらも、それを抱え帰宅し、ダイニングテーブルの上に置きました。

 そして、「この量なら5日は保(も)つな」と満足し、その戦利品を眺めながら晩酌を始めました。やはり気分が良いときのお酒は格別です。どんどん酒が入っていきます。何杯目でしょうか。小腹が空いてきました。僕は少食なので、ご飯も一膳未満で充分です。手っ取り早い卵かけご飯でも食べようと、冷凍庫に保存されている一人前のご飯を解凍して食べました。また気分が良いときのご飯も格別です。今日は珍しくお代わりでもしようかなと考えていると、ちょうどそのときに、嫁が帰ってきました。

 もちろん僕はすぐに、狩猟で大物を捕らえ帰って来た主人のように、「貰ってきたよ!」と、堂々と例の物を見せつけました。すると、当然喜んでくれると思っていたのですが、反応が薄く、じーっと僕を観察しているのです。少しばかり嫌な予感はしましたが、とりあえず、貰った経緯を説明しました。すると嫁が、僕の食べている卵かけご飯を見つめ、「何で貰った物から食べないの!?」と、言い放ったのです。

 ん? どういうこと? 僕にはその言葉だけでは、よく理解できませんでした。呆然としていると、立て続けに「保存してない物から食べてよ! 冷凍されているのは、いつでも食べれるでしょ!? それよりもなによりもデカイ!」と、流れるように言われたのです。

 ず、ず、図星~! 確かに枕サイズのご飯を冷凍するのは、難しいです。難しいというより、ウチの冷凍庫では、不可能です。

 更にそこで嫁が低いトーンで、「それに今私、デトックスのために食材にこだわってるんだけど」と言われてしまいました。全然気がつかなかった。そんな新発見もありつつ、当然の流れですが、僕がそのご飯を全て食べることになりました。前述した通り僕は小食です。だからかなり時間がかかりました。かれこれ10日はかかったでしょうか。頑張りました。できる限り食べ、冷凍するのは無理なので、冷蔵ができるまでは、踏ん張りました。ですが、ご飯の冷蔵って無意味ですね。カピカピです。そのカピカピをお焦げと思い食べました。

気配りできない僕が「気配り」について考えてみた

 もう一度問います。「気配り」とは、一体何なんでしょうか? 僕は、よく分かりません。でもそれでも良いと思えるようになりました。分からないものは分かりません。ですが、「気配りをしてあげたい」という気持ちを持つことは、大切にしたいと思いました。

 すると僕の現実が変化してきました。当然嫁は、僕が気配りができないと思っています。そんな僕が、嫁の希望と合致したとき、奇跡が起きたかのように喜ばれるのです。

 最近では、初めて行く場所情報を、あらかじめ車のナビに入力したのと、雨が降り始めたので洗濯物を取り込んだのとの、二点です。どうですか? 気配りというよりも、学習ができているでしょう? それでも良しとしませんか? ちなみに、どちらのときも嫁に、「何で!? 珍しい! 気でも狂ったのー!?」と、歓喜の雄叫びをあげられました。

 現段階での僕の「気配り」は、まぐれかもしれません。それを気づかせてくれたのは、嫁の僕に対する接し方のおかげです。そして僕は確実に進化しています。

気配りできない僕が「気配りの正体」について考えてみた。【書籍オンライン編集部セレクション】内間政成(うちま・まさなり)
芸人。スリムクラブ ツッコミ担当
1976年、沖縄県生まれ。2浪を経て、琉球大学文学部卒業。5~6回のコンビ解消を経て、2005年2月、真栄田賢(まえだ・けん)とスリムクラブ結成。「M-1グランプリ」は、2009年に初めて準決勝進出。2010年には決勝に進出し準優勝。これをきっかけに、人気と知名度が上昇。「THE MANZAI」でも決勝進出。2021年1月、「2020-2021ジャパンラグビートップリーグアンバサダー」に就任。