無償化=税負担で起こる
「二つの問題」とは?

 税金を使ってバラまくことに日本社会は何も抵抗がないようだが、二つの点で「無償化(税負担)」には問題がある。

 一つは、モラルハザードだ。これは、医療費の無償化(税負担)では各種調査研究で明確になっているし、他の無償化(税負担)でも同様の問題が起きていると考えられる。

 子ども医療費の助成は経済的な事情による受診控えを抑制する半面、完全な無償化(税負担)は過剰な受診につながることになる。自己負担がないと分かれば、湿布やビタミン剤、目薬など、ドラッグストアで買えるものも、わざわざ医者へ行き、診断を受けて処方してもらい人がたくさん現れるのだ。

 これらの点について、東京大学の重岡仁教授と飯塚敏晃教授は、以下のような調査・分析をしている(日本経済新聞、23年2月19日)。

「(05~15年の10年間で)首都圏の1都3県と大阪、愛知の294自治体について6~15歳のレセプトデータを取得し、子ども医療費助成の導入前後で医療費や通院頻度がどのように変化しているかを調べた」

「分析の結果、自己負担が少額になるほど1カ月当たりの受診回数が増える関係が認められた。特に無料化した場合はレセプト上は健康とみられる子どもの受診回数が目立って増え、処方箋をみても抗生物質の処方といった効果の低いものが大幅に増加していた」

「通院1回200円の自己負担を無料にすると、医療費は一気に10%も増える結果となった」

「重岡教授と東大の渡辺安虎教授が中学生までの医療費無料化の開始時期を人口の多い5府県で調べたところ、1つの自治体が始めると首長選挙のたびに近隣自治体が次々と追随していく傾向があることがわかった」

 また、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)准教授・医師の津川友介氏は、この記事について「医療機関で受けられる医療行為が全て健康の改善に寄与しているわけではなく、実は健康上のメリットのない『低価値医療』が一定割合存在します。風邪に対する抗生剤の処方などがこれに該当します」とコメントをしている。

 選挙に当選するために、国民の税金を投入して医療費のムダ使いを推奨しているということだ。どうして、本来医療に必要のないものまで税金で負担をしなくてはいけないのだろうか。