東芝が縮小均衡に陥った「負の遺産」処理
2015年3月期、東芝の連結売上高は約6.7兆円だった。その後、不適切な会計処理が発覚した。16年度には、傘下の米原子炉メーカー大手ウエスチングハウスの原発建設コストが増加し、工期の遅れなどに伴い1.4兆円の損失を計上した。そうした結果、東芝は債務超過に陥った。
17年、東芝は上場維持のために約6000億円の増資を実施した。これにより、「物言う株主」が増えた。資金繰りの改善や株主への価値還元、収益力の立て直しに向けて、半導体事業などを売却した。設備投資負担が重く、収益も市況に影響されやすかったからだ。
度重なる事業リストラにより22年3月期の売上高は約3.3兆円に落ち込んだ。23年2月14日には、ハードディスク駆動装置(HDD)の需要減少などを理由に業績予想を下方修正してもいる。
火を見るよりも明らかに、東芝は縮小均衡に陥っている。なぜそうなったかは1990年代初頭のバブル崩壊までさかのぼって考える必要がある。
バブル崩壊によりわが国の株価や地価は下落し、不良債権処理は遅れ、景気は長期停滞に陥った。東芝内部ではリスクを回避しようとする心理が高まったのだろう。現状維持が優先され、自社で設計、開発、生産、販売を完結する体制は温存された。
一方、90年代以降、世界経済はグローバル化した。米国ではIT革命が起きた。アップルを筆頭に先端企業はソフトウエアの設計と開発に集中し、投資負担の重い生産を外注した。台湾の鴻海精密工業(その傘下の中国企業、フォックスコン)や、世界最大のファウンドリに成長した台湾積体電路製造(TSMC)などは、受託製造分野で急成長を遂げた。こうした環境変化への対応が遅れ、東芝の競争力は急速に低下した。
2006年にウエスチングハウスを買収したのは、東芝が競争力を維持していた原子力発電分野での成長を加速させるためだった。その際、東芝は、買収契約に含まれていたオプション行使権のリスクを過小評価したことで、巨額損失の発生につながった。
東芝は経営体力を失い、自力で経営再建を目指すことが難しくなった。その状況下、東芝は可能な限り雇用を維持しようとしたと考えられる。それは経営再建が遅れる要因の一つになった。