経済・安全保障の面で東芝の重要性が増している
経済や安全保障などの面で、東芝の重要性は一段と高まっている。東芝は量子コンピューティングの分野で一時、世界トップクラスの競争力を誇った。量子コンピューティング関連の技術は、ITセキュリティーの強化などに欠かせない。それは、安全保障体制の強化に直結する問題だ。
発電や鉄道などインフラ関連の技術に関しても、わが国が東アジア新興国のインフラ整備需要を取り込むためにも、重要性は増している。そうした技術が海外の企業に流れることは、わが国に大きなマイナスとなる。
主要先進国では規制を強化したり、産業補助金を給付したりする動きが広まっている。米国政府が、最先端の半導体の製造技術や知的財産が中国に流出しないようにしたのは顕著な例だ。
模倣が困難な新しい製造技術、それを支えるソフトウエアは、中長期的な経済の成長と安全保障の体制強化に欠かせない。必要に応じて政府は市場に介入し、民間企業の事業運営やリスクテイクを積極的にサポートすべきとの考えは一段と高まっている。そうした考えに基づき、20年8月、ドイツでは中国企業による衛星・レーダー関連企業、IMSTの買収が阻止された。
翻って20年6月、わが国は改正外為法を施行し、外資規制が強化された。その後、ウクライナ紛争が発生し、台湾海峡の緊迫感も高まっている。世界の安全保障への責務の点からも、主要先進国は軍事転用可能な技術の管理体制をさらに強化しなければならない。
日本政府は、東芝の先端技術などが海外企業に流出する展開は防がなければならない、との考えを一段と高めているはずだ。それに伴い、国内企業の協力を取り付け、東芝の知的財産などが海外に流出しないようにして再建を進める重要性が高まったといえる。
つまり経営再建に時間がかかったのは、東芝固有の事象だけではない。経済運営と安全保障の体制強化のために、先端分野や防衛関連の技術を国全体で守るとの考えが高まったことも大きい。その分、東芝のリストラや出資者の選定は、一段と慎重に行われたと考えられる。