資産運用は「長期・積立・分散」が大事といわれても、コツコツ続けるのは意外と難しい。。。そのコツについて、ファイナンシャルジャーナリストの竹川美奈子さんと、資産運用ロボアドバイザー・サービスを展開するウェルスナビ代表取締役CEOの柴山和久さんに聞いていきます(本稿は2022年11月2日に開催した「長期でお金を育てる! ビジネスパーソンのためのコツコツ投資実践法セミナー」からの抜粋記事です。書籍オンライン編集部)

長期で投資をするときの目標設定に役立つ「126の法則」<br /><竹川美奈子さん×柴山和久さん 対談第1回>投資をコツコツ続けるコツは? Photo: Adobe Stock

「目標」を立てる意味

――長期投資が大事とはいえ、「最初の半年の壁」もあると聞きます。投資をコツコツ続けるコツはあるでしょうか。

竹川美奈子さん(以下、竹川) 私がお勧めしているのは、資産運用を始めるにあたって、ざっくりした方針を決めておくことです。たとえば、

・目的→老後資金用に投資信託の積み立てをしていく
・運用期間→60歳まで積極運用。その後は株式の比率を下げる
・配分→リスク資産と無リスク資産(預金)が半々になるようにする
・商品→世界の株にまとめて投資をしたいので1本で積み立てていく

 ……といった感じです。その後も迷ったときにはその方針に立ち返るのがいいのではないかと。柴山さんはどうですか。

柴山和久さん(以下、柴山) そうですね。あとは、目標を立てることも大事ではないでしょうか。

 子どもの習い事と同じで、目標を設定しておかないと、挫折するリスクが高くなると思うんですね。最初は頑張って学んでいても、思うように上達しない時期があるとやめたくなる。そんな時期に、例えば水泳であれば「泳げる自分」――つまり目標をイメージしておくと、諦めずにやっぱり頑張ろう、と感じられます。

 ただ、資産運用を始めるときには、一般には、目標設定されない方が多い印象です。例えば、「毎月出せる範囲で1万円から投資をしていこう」とか、「手元に50万円あるから投資をしよう」とか、あるいは「退職金で3000万円手に入ったから投資をしよう」という感じです。ですから、まず始めることがもちろん大事だけれども、可能であれば、最初に何を目標にすえるか考えておくと、続けやすいのではと思います。

老後資金「2000万円」は本当…?!

――いくら貯めるという目標は年齢や環境によって異なるでしょうが、どのように立てればいいでしょうか。例えば「老後資金2000万円問題」が注目された時期もありました。

柴山 目標の設定は非常に難しいですよね。なので、まずは「思いついた金額」を目標にするということでいい、と思うんです。ウェルスナビのアプリの中に、資産を増やしていった後、リタイアして資産を取り崩していくシミュレーションができるライフプランツールがあるのですが、そこで目標を設定されている方の平均額は約1900万円と、奇しくも老後2000万円問題に近い数字です。

 でも実際に2000万円を10年や20年でどう作るかといえば、意外と難しい。つい直近のリターンが高い商品を選びがちになります。あるいは、月々の積立額を少し増やすと達成確率は上がるのですが、実質賃金が過去20年間下がり続けている中で、積立額を増やす余裕がないのも実情で、これも実践は難しいと感じる方が多いと思うんです。

 ただ、なるべく早く始めて、なるべく長期で続けるにあたって、目標を思いついたところでまず設定してみる。さらに、どうやったら達成できるんだろうとシミュレーションしてみる。すると、現実的にどうしたらいいのか考えやすくなると思います。

竹川 私は逆に、目標は無理に設定しなくてもいいのでは、と考えています。できる範囲から少額でも始めて、少しずつ増やしていけばいいかなと。もう一つ、年に一回でいいから、ご自身のバランスシート(貸借対照表)を作ることをお勧めしています。いまは家計簿アプリでも手軽に作成できます。

 たとえばリタイアに向けて住宅ローンが圧縮されているか、金融資産が積み上がっているか、といった点を定点チェックしてほしいです。それと、投資した部分だけ見ていると変動が大きく怖いと感じるかもしれませんが、預金やほかの金融商品など金融資産全体で捉えると、それほどでもないなと少し安心できるかもしれません。

 このとき、企業型確定拠出年金やiDeCo(個人型確定拠出年金)とった年金資産も加えていただくと、すぐには受け取れないが将来受け取れる資産もあること、それらを含めて資産全体が積み上がってきていることが確認できます。全体像がわかると、たとえば「銀行の課税口座で投資信託を買っていたけど、非課税で運用できる企業型DCでしっかり運用したほうがよいな」といった気づきもあります。

――なるほど、目標設定もいいけれど、保有資産の定点観測をすると、さまざまな気づきもありそう。どちらも自分に合うほうで、投資を続けるモチベーションにつなげられるといいですね。

126の法則と72の法則

竹川 慶應義塾大学の枇々木規雄先生が提案された「126の法則」という積立投資のルールがあります。積み立てを行う前提で、元本が2倍になるには「年数×利率(%)≒126」という計算式が成り立つことから、「126÷金利」を計算すると、「何年で元本が2倍になるか」がわかります。たとえば30年かけて積み立てるなら年率4.2%、35年かけるなら3.6%で運用する、ということになります。仮に2000万円を30年でつくりたい場合、(4.2%で運用できるなら)積立元本は2000万円の半分の1000万円でよいので、毎月2.7万円を積み立てればよい、と計算できます。

柴山 それなりに数字に強い方でないと、少しとっつきづらいかもしれませんが(笑)、仰るとおり便利な計算式ですよね。枇々木先生にはウェルスナビのアドバイザーも務めていただいていて、ライフプランツールも監修を受けながら作っています。

竹川 一括で貯蓄する・投資した場合に簡易計算できる「72の法則」(「貯蓄・投資したお金が2倍になる期間=72÷金利」で割り出せる)は有名ですが、積立投資をしたときのシミュレーションには「126の法則」を使うとイメージしやすいと思います。(対談第2回に続く)