2022年後半の急速な円安時に円建てで積立投資を始めて、続けることに不安を感じた方も多いのでは? 為替レートによって、投資の始め時はあるのでしょうか。ファイナンシャルジャーナリストの竹川美奈子さんと、資産運用ロボアドバイザー・サービスを展開するウェルスナビ代表取締役CEOの柴山和久さんに聞いていきます(本稿は2022年11月2日に開催した「長期でお金を育てる! ビジネスパーソンのためのコツコツ投資実践法セミナー」からの抜粋記事です。書籍オンライン編集部)

ドル円の為替レートは投資にどう影響する?投資の始めどきは?<br /><竹川美奈子さん×柴山和久さん 対談第2回>為替が投資に与える影響をどう考えればいい? Photo: Adobe Stock

「円安リスク」を避けるには?

――2022年後半は急速に円安が進んだり、各国の金融政策も方針転換の時期を迎えていることから、為替レートの動向と投資の影響を気にされる方も増えていると思います。柴山さんは常々「今後、円安がもっと進むのか、円高になるのかは予測できない」と仰ってはいますが、それぞれのシナリオや投資への影響をどのように見ていらっしゃるのか、伺えますか。

柴山和久さん(以下、柴山) 円高になるか円安になるかはわからない、というのを前提として、それぞれの場合どうなるかを考えてみましょう。

 まず、円高になった場合、私たちが持っている預金の実質的な価値は上がります。将来受け取る給与や年金も円建てですので、それらの価値も上がります。逆に、円安の場合は2022年のように、iPhoneの値段がアメリカでは変わらないけど日本では40%上がる、といったことが起きます。iPhoneに限らずコーヒーや原油、さまざまな材料や製品を日本は輸入していますので、円安になるとそれらは軒並み値上がりし、預金の実質的な価値は下がってしまうことになります。また、将来受け取る給与や年金もやはり円建てですので、その価値も下がってしまいます。

 円高の場合は、企業は大変ですが、消費者から見ると預金の価値、将来受け取る給与、年金の価値などにプラス、購買力にもプラスです。逆に円安の場合には資産にも購買力にもマイナスです。ですから、個人の資産を守るという観点からすると、円高のことは考えなくてよくて、円安が怖い。円安になった場合に、自分自身が持っている預金の価値も下がりますし、その下がった価値を取り戻すために将来受け取る給与や年金で補えるかというと、その価値も下がってしまうためです。

 そこで、そうしたリスクを避けるには、あらかじめ世界中のさまざまな資産に分散して投資をしておくことが重要です。円安の場合も、たとえば円での価値が上がった一方でドルの価値は変わらず、打ち消しあうことができるからです。このように、円安になった場合に資産が減ってしまう、あるいは将来受け取る給与や年金の価値が減ってしまう分を補うためにも、長期・積立・分散の投資は一種の「保険」としての機能を果たします。

竹川美奈子さん(以下、竹川) 分散投資はその点で非常に重要ですよね。

柴山 はい。この半年間、非常に多くの方からいただくご質問があるんです。今が円安で、将来は円高に戻るとすると、今から長期・積立・分散の資産運用を始めても円高になったら価値は下がってしまうんだから、しばらく様子を見るべきではないか、というものです。

 確かに円高になると、長期・積立・分散で投資した円の価値は下がってしまうわけですね。けれども、円高というのは、日本の国力が強くなってるということを意味するわけですから、その際には、将来受け取る給与や年金の価値は上がりますし、預金の価値も上がるので、実はあんまり心配しなくてもいいシナリオではないかと考えています。

 さらに、積立で運用をしていくと、円高になったり円安になったりを繰り返しながら進んでいきますので、積立をすることでそのタイミングを分散することができて、為替のリスクも若干下げることが可能です。そうした観点から、為替の影響が心配な局面であっても、やはり長期・積立・分散で資産運用していくことがなお有効だと思っています。

大事なのは、「タイミング」より……?

――竹川さんにも伺えますか。投資を始めるべきは今なのか、為替状況の変化に加え、今後ますますインフレも……と聞くと、迷われる方は多いようです。

竹川 一括でまとめて投資をするのでなく積立投資であれば、「始めたいときに始める」でいいと思います。買うタイミングも分散されて平準化されます。「始めるなら、今。解約するのは、お金が必要になったとき」といつも言っています。

 積立投資を「いつ始めたらいいのか」とよく質問を受けますが、資産形成に向けた土台づくりとしての積立投資であれば「タイミング(時機)ではなくて、タイム(時間/期間)」が大事です。タイミングを図ろうとして、いつまでも始められないのは時間のロスになります。それよりも、早くスタートして元本を積み上げ、長期的に運用していったほうがいい。いつが最適なのかはわからないのだから、少しでも長く時間をかけて資産を徐々に積み上げることを重視すべきだと思います。

柴山 全く同感です。(対談第3回に続く)