自分の現状を乗り越えることが、
自己肯定感につながる

榎本博明『自己肯定感という呪縛』青春出版社榎本博明『自己肯定感という呪縛』青春出版社

 研究仲間である田中道弘は、自己肯定感尺度の開発の途上で、「全体的には自分に満足している」という項目が自分に「あてはまらない」と答えた人たちに、その理由を尋ねている。その結果、「自分に満足してしまったら、今後の成長が望めない」などの前向きの回答をした人が3割以上もいたのである。

 自分の現状をそのまま受け入れ肯定するだけでは、なかなか自分なりに納得のいく人生になっていかない。自分の現状を肯定することで上辺だけの自己肯定感を維持しようとしても、結局のところ自分の現状を乗り越えることなく停滞しているのであれば、ほんとうの自己肯定感は手に入らないのである。

 その意味でも、安易に自己肯定を促す今の風潮は好ましくないと言わざるを得ない。ほめるばかり、自己肯定を促すばかりの風潮は、自分の現状に疑問を抱き、ときに現状を否定し、今の自分を乗り越えていこうともがき苦しむ機会を奪っていると言えるだろう。それは、成長の機会を奪っているということにもなる。

 それで上辺だけの自己肯定感を取りつくろったとしても、本当の自己肯定感は育まれはしない。本当の自己肯定感を育みたいなら、現状の自己肯定にとらわれることなく、時には自己否定しつつ、今の自分を乗り越えるべくもがき苦しむことが大切だ。自己肯定感の高さは、そうした動きの先に自然に手に入るものなのである。