社会構造の大きな変化により
東京への人口流入は回復しない可能性も

 国内で等しく経済環境、社会環境の変化が発生しても、圏域の特性や賃料水準の違い、さらにはテレワークに対する企業・業務の親和性の違いなどから、首都圏および近畿圏、中部圏での人口動態には比較的大きな差異が発生している。

 コロナの感染拡大から3年を過ぎて、首都圏では人口流入が回復しているとみることもできるが、その実態は都心周辺への流入ではないことも浮き彫りになり、“コロナ以前”に戻るには相応の時間が必要になるとの見方ができるだろう(もしくは新たな社会構造に生まれ変わっていくとも考えられる)。

 折あしく、日米の金融政策の違いによって発生した円安・ドル高により、消費者物価は今後もじりじりと上昇する見込みであり、インフレ対策としての金利上昇圧力はこれから高まることが予測される。

 仮に植田新日銀総裁が異次元といわれるイールドカーブ・コントロールを取りやめて、国債市場での売買に金利推移を委ねることになれば、長期金利に連動する住宅ローン固定金利も上昇が高い確度で想定される。そうなれば、賃貸ユーザーだけでなく、住宅購入を検討しているユーザーも、物件価格が比較的安価な準近郊・郊外のベッドタウンに目を向ける可能性が高まる。

 社会構造の大きな変化によってテレワークが全国レベルで定着し、もはやコロナ前の働き方には戻らないとなれば、東京都および東京23区への人口流入は、コロナ前の水準に回復しないことも十分考えられる。その結果、ヒト・モノ・カネが集まる効率的で快適な“都市生活”の在り様が変容していく可能性もある。その意味では、コロナ禍が社会・経済に与えた影響は計り知れないと言うべきだろう。

 23年1月および2月の移動人口は、東京都および東京23区で3000人程度の転入超過が発生している。

 渡航制限やマスク着用などの措置が相次いで緩和されるなか、“コロナ後”を見据えた本格的な移動人口の揺り戻しは起きるのだろうか。それともワークライフバランスの実現やジョブ型雇用の拡大によって郊外化が完全に定着し、働き方に本来の意味での改革が起こるのだろうか。

 住宅需要の今後を見定めるためにも、移動人口の推移から当面目が離せない状況が続く。

(LIFULL HOME’S総合研究所・副所長チーフアナリスト 中山登志朗)