「知性」と「コミュニケーション能力」が同時に求められるコンサルタントという職業。そんなコンサル22年の知見を凝縮した『頭のいい人が話す前に考えていること』の著者である安達氏は、3000社1万人ものビジネスパーソンに会う中で、「頭がいいだけで慕われていない人」と、「知的で周りからも慕われている人」の差に、あるとき気づいたと言います。「知性」と「コミュニケーション」の新法則を綴った『頭のいい人が話す前に考えていること』より、本文の一部を抜粋・再編集してお届けする。

頭のいい人が話す前に考えていることPhoto: Adobe Stock

知識が「知性」に変わる瞬間

 たとえば、コーヒーに詳しい男性がいたとします。
 その男性が女性と喫茶店に入り、メニューを見ます。
 女性がさまざまな飲み物の中から、「カフェオレ」を注文しようとしています。そこで、

「カフェラテとカフェオレの違いって知ってる? カフェオレはドリップコーヒーとミルクが5:5だけど、カフェラテはエスプレッソコーヒーとミルクが2:8の割合なんだよ」

 なんて話し始めたらそれは、ただの知識の披露です。
 相手の女性がコーヒーに興味があればいいですが、知識の披露ばかりしていると、嫌われてしまう可能性も大いにあります。

 しかし、女性が「ちなみにデカフェってないんですかね?」と店員さんに聞いたときにこのように話したらどうでしょう。

男性「もしカフェインが苦手なら、カフェオレよりかカフェラテのほうがいいかも」
女性「そうなんですか?」
男性「カフェオレよりカフェラテのほうがカフェインが少ないはずだから」

と言ったなら、これは知識の披露ではなく、相手のために知識を使ったことになります。

 人間は自分の話ばかりして、ベラベラ知識を披露している人に、知性を感じません。

 知識は、だれかのために使って初めて「知性」となるのです。

 大切なのは何かを話したくなったときに、“それは相手のためになるか”の視点で考えることです。

 もちろん、その知識が相手のためになるかどうかは、話してみないとわからないことです。そして、アドバイスに関しては、アドバイスする人はみな、相手のためになると思って言っています。
 ただ、話す前に“本当に相手のためになるのか?”と立ち止まることで、知識を披露したいだけ、ただ言いたいだけの自分に気づくことができます。
 そして、「相手のためにならない知識」はいくら言いたくてもぐっと堪えて、言わない勇気を持つことです。
 頭のいい人は自分を客観的にとらえる能力に長けています。話す前に、相手の立場に立つことで、自分を客観視できるのです。

 人間、だれでも知識を披露したくなる瞬間はあると思います。でもそこで、知的で慕われている人は、知識を自分のためでなく相手のために使う、という話を思い出してみてください。

 私は、コンサルタントとして3000もの会社で、「頭のいいけど慕われていない人」「頭がよくて慕われている人」を数多く見てきました。

 その知見から頭のよさは、IQの高さでもなく、知識の量でもなく、話す前にどれだけ立ち止まれるかで決まる、ということを実感しています。

安達裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役
1975年生まれ。筑波大学大学院環境科学研究科修了後、 理系研究職の道を諦め、給料が少し高いという理由でデロイト トーマツ コンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社。品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事し、その後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。大阪支社長、東京支社長を歴任したのちに独立。現在はマーケティング会社「ティネクト株式会社」の経営者として、コンサルティング、webメディアの運営支援、記事執筆などを行う。また、個人ブログとして始めた「Books&Apps」が“本質的でためになる”と話題になり、今では累計1億2000万PVを誇る知る人ぞ知るビジネスメディアに。Twitter:@Books_Apps