選挙で強めの言葉は理解できるが、「法的措置」はいかがなものか
文鮮明氏の反共思想に理解を示したことから距離が縮まったと言われる、安倍元首相の祖父、岸信介元首相の地盤は、旧山口2区で主に山口市が拠点だ。また、安倍家ももともとは長門市が本家で、この地で江戸時代から続く大庄屋だった。つまり、岸家も安倍家も、もともと下関とはそこまで強い繋がりがあったわけではないのだ。
それが、安倍晋太郎氏が1958年に旧山口1区から出馬する際に、下関にも事務所が開設される。そして、その翌年59年、既に韓国で活動をしていた旧統一教会が日本に初進出を果たした。
下関から日本に入った文鮮明氏の宗教が日本に入ってきたのとほぼ同じタイミングで、文氏と信頼関係を結んだ岸信介氏の娘婿が下関に事務所を開設する――。
反自民で政治家をやっていて安倍王国で票を得ようと思ったら、この「奇妙な一致」にフォーカスを当ててそこを叩かないわけがない。「選挙」というものはきれいごとだけでは勝てない。時にライバルを引きずり下ろすくらいのことをしなければいけないものだ。その流れで「下関は旧統一教会の聖地」という強めのワードが飛び出してしまうのも、よく理解できる。
つまり、有田氏の今回の「聖地」発言は、一部の人には誤解を招いてしまったが、反自民という「政治運動」をされていることを踏まえれば、出るべくして出るような類の発言なのだ。
そういう意味では、有田氏の今回の発言は、野党政治家としては妥当だとは思う。しかし、発言を批判されて、すぐに法的措置みたいなのをチラつかせたのは、結果としてあまりイメージがよろしくなかったのでは、と個人的には感じる。
特に立憲民主党は先ごろも、小西洋之衆議員議員らが国会での発言を切り取られたとしてメディアに法的措置を示唆した、と話題になった。政治家なので、自分の主張にそぐわない批判者を黙らせたいという気持ちがあることは理解できるが、権力者がそれを乱発すると、「スラップ訴訟(批判や反対などに対する封じこめの手段としておこす訴訟のこと)」と批判を受ける恐れもある。
また、長いこと危機管理をやってきた立場で言わせていただくと、政治家やメディア、ジャーナリストという「言論」でメシを食う人が、何か言われてすぐに法的措置を持ち出すというのは、「今まで自分は散々人のことを批判してきたのに、批判される側になるとそれか」という感じで、ネガイメージが広まってしまうケースもある。
もちろん、犯罪を犯したなど社会的評価を著しく貶めるような事実無根の誹謗中傷には迅速に対応すべきだが、今回の「聖地論争」のような多様な意見があるものの場合、やはり有田氏のような高名なジャーナリストは、弁護士に何をアドバイスされようとも、まずは「言論」で国生さんの誤解を解いていただきたかったな、と思う。
いやいや、決して批判などではありませんので、どうか法的措置だけはご勘弁を。
(ノンフィクションライター 窪田順生)