終業時間が変われば、バスの待ち時間もなくなり早く帰れる

 その週の金曜日。Aが休憩室でパンを食べていると、隣に座っていたCに突然話しかけられた。

「ねえ、君、確か新入りさんだよね?」
「は……はい。Aといいます」
「A君、本社って、昼休みが長すぎると思わない? どうせ食事はすぐに終わるし、あとは暇なんだから。休み時間を減らしてもらって早く帰りたい。もし昼休みが45分になったら、終業時間も15分早くなるから、1本早いバスに乗れるしね」
「自分もそう思います」

 事務所はJRの最寄り駅からバスで20分の場所にあるが、バスは1時間に1本しか運行していない。もし17時45分に退社できれば、17時58分発のバスに乗れる。ところが18時退社だと18時58分発まで待たなくてはならないのだ。自家用車で通勤している社員は少なく、Aを含めほとんどの社員が自宅から電車とバスを乗り継いで通っていた。帰りのバスを待つ間、社員たちは終業時間に対して「バスの時間に合わせればいいのに」などと不満を漏らし、Aも同じように考えていた。

 昼休みが終わり、自席に戻ったAは、Cとの会話を頭の中で繰り返していた。そして「確かに、昼休みは45分もあれば十分。いや、俺は昼休みなんて要らない。いっそ、ぶっ続けで仕事をして、17時に帰った方がもっとよくないか?」と考えが広がっていった。バスの時間を調べてみると、「おっ、ラッキー! 17時台は15分発だ。これは実行に移すしかない」

昼休みナシで働けば、終業時間を1時間繰り上げられる?

 次の週の月曜日、昼休み時間になってもAだけは休憩室に行かず、自席でメロンパンを食べながら仕事を続けた。そして17時になると「お先に失礼します」とタイムカードを打刻し、職場を後にした。他のメンバーはてっきりAはB課長の許可を得て早退していると思っていたので、誰も声を掛けなかった。

 4月21日、出社したAはB課長に呼ばれた。

「昨日が給料の締め日だから、確認のため君のタイムカードを見たんだけど、4月17日から20日までの4日間、本来は18時まで勤務するところを17時で早退しているね。これはどういうこと?」
「昼休み時間に働いたので、17時に帰りました」
「それって、先輩に指示されたの?」

 Aが首を横に振ると、B課長は困った表情で言った。

「だったら、昼休みはきちんと取らないとダメだよ。このタイムカードを総務課に提出したら、1日1時間×4日分が早退扱いになって、給料から引かれちゃうよ」