Aは反発した。

「自分はちゃんと8時間働いています。だから1時間早く退社したっていいですよね? 給料を引かれたら、4時間分はタダ働きじゃないですか!」

 そして続けた。

「第一、昼休みが1時間なんて長すぎます。みんな『休憩は短くていいから早く帰りたい」って言ってますよ」

 その日の午後、B課長はメンバー全員のタイムカードを持って総務課に出向き、D部長に「A君が、4月17日から4日間、無断で17時に退社しているんですが、扱いはどうなりますか?」と言いながら、Aのタイムカードだけを抜き取って渡した。

「B課長は、17日の段階でA君の早退を把握していなかったの?」
「ええ。17日から20日まで工場に出張していたので知りませんでした」
「他のメンバーは?」
「さっき主任に確認しましたが、早退するところを見ても、私が許可したと思っていたので誰も気に留めなかったそうです」

 そしてB課長は、さっきAと交わした会話の一部始終をD部長に話した。D部長は、4時間分を給料から控除していいものか否かの扱いに困り、E社労士に相談することにした。

「昼休みを取らずに1時間早く退社」は可能なのか

 翌週月曜日の午前中、D部長は社内でE社労士と面談し、Aの件の詳細を説明した。そして、「A君の主張通り、昼休みに働く代わりにその分早く退社する扱いは可能ですか?」と尋ねた。E労士は次のように話した。

<休憩時間について・一部抜粋>
〇 休憩時間とは、労働者が休息を取るために労働から完全に解放されることを保障されている時間のことをいう。
〇 休憩時間中は仕事をしなくてもいい時間なので、賃金は発生しない
〇 企業が労働者に休憩を取らせることは、法律で定められた義務である(労働基準法34条)
〇 法律による休憩時間の最低基準は、労働者の1日当たりの労働時間により決まっている
 ・労働時間が6時間を超える場合:45分
 ・労働時間が8時間を超える場合:1時間
労働時間が6時間までの場合、休憩を与えなくても法律違反ではないが、勤務時間の最中に食事の時間を確保するためなどの理由で、休憩時間を与えていることが多い

 E社労士はこう続けた。

「休憩時間は働いている間に蓄積する疲労を回復させるために設定しているので、労働時間の途中にはさむ必要があります。従って、Aさんの要望に会社が応じた場合は、法律違反になります。他の社員と同様に、昼休みを取らせてください」