今、「学校に行かない子どもたち」が、とても増えています。小・中学校の長期欠席者は41万人(うち不登校が24万5000人・令和3年度)にのぼり、過去最高を更新しています。本連載では、20年にわたり、学校の外から教育支援を続け、コロナ禍以降はメタバースを活用した不登校支援も注目される認定NPO法人「カタリバ」の代表理事、今村久美氏の初著書「NPOカタリバがみんなと作った 不登校ー親子のための教科書」から、不登校を理解し、子どもたちに伴走するためのヒントを、ピックアップしてご紹介していきます。「不登校」という事象について考えるときに、本人へのケアという個人に着目した視点と、教育環境との相性や教育制度など、個人を苦しめている社会の側に視点をおいた考え方など、幾つかの視点があります。ここでは個人に着目した考え方の一つを本書から紹介します。

【不登校】無理をさせない方がいいのか、背中を押したほうがいいのか? の考え方Photo: Adobe Stock

子どもの「レジリエンス」を育む

「レジリエンス」という言葉をご存じでしょうか? 困難やストレスに襲われた時に、それを乗り越え、回復していく力を指す心理学の用語です。

 たとえば、ボールは一瞬、凹んでも元の形に戻ります。心も同様につらいことや悲しいことがあっても回復していきます。
 この元に戻り跳ね返そうとする弾力がレジリエンスです。
 傷つきやすい子や大らかな子がいたりと、「心のボール」の弾力は子どもによって違いますが、子どもたちは様々な経験によってボールの弾力を育てていきます。
 しかし、環境との相性が悪かったり、誰にも言い出せず気持ちを溜め込んでいると、心のボールは、ゴムがひび割れて固くなったり、穴があいたりして、空気がぬけていきます。

 不登校になるというのは、ボールが凹んでしまって自力ではなかなか元の形に戻ることができない状態です。
 だからこそ、まずは休ませて、ボールをふくらませてやることが大事です。

 一方で、この先も長い子どもの人生を考えると、人間関係や勉強、仕事などで様々な困難と出会うこともあるでしょう。それを乗り越えていくためには、ボールが凹むのを親が先回りして防ぐばかりでなく、子ども自身の「レジリエンスのボール」の強度や弾力が強くなるように導いてあげることも大切だと思います。

ストレッチゾーンを見極める

 不登校の回復期(P61参照)となって、子どもの心のエネルギーが回復してくると、「頑張れ」と言うべきか、無理をさせないほうがいいのか、迷うこともあります。
 そんな時に参考になるのが、人事マネジメントなどでよく使われる「コンフォートゾーン」「ストレッチゾーン」「パニックゾーン」の考え方。

 子どもの状態をよく見ながら、何のストレスもない状態のコンフォートゾーンから少しの背伸びや挑戦が必要なストレッチゾーンの体験を徐々に促してみる。
 するとそれが自信となって子どもの成長につながります。

 ただしそれがパニックゾーンになっていないか、注意深く気を配ることも非常に大事です。

 *本記事は、「NPOカタリバがみんなと作った 不登校ー親子のための教科書」から抜粋・編集したものです。