正解のわからない新規事業創出
手がかりは周囲や社会の「困り事」

宇野 イノベーションラボは、ラボという名前が付いているように、研究開発本部(R&D)の中にある研究所の一つとして立ち上がりました。ただ、従来の研究開発組織とは異なる点があります。

 まず、「新規事業を作るのがゴール」という点です。従来の研究開発組織は、「新製品の開発」をゴールとすることが多いですが、我々は「新事業の創出」をゴールにしています。

 また、「ネットワーク型の組織」という点も異なります。従来はいわゆるピラミッド型の組織、つまり所長、管理職、その下に各メンバーがいるという形でした。しかしこれだと新しいことをするときになかなかうまくいかない。そう考え、アメーバ状の、ネットワーク型の組織にしようと考えました(下図参照)。

 ネットワーク型の組織では、新しいテーマを立ち上げるリーダーが、そのテーマの責任者となります。リーダーがチームメンバーを募り、自分のチームをつくっていく。片や、他のチームでリーダーだけど、こちらのチームではサポーターとして参加しているという人もいて、さまざまな人たちが有機的に組み合わさった組織づくりを目指しました。

 イノベーションラボを立ち上げてから最初のミーティングで、私はメンバーに3つの宣言をしました。

 一つ目は、「既存事業に関わる仕事はしない」。新しい組織ができると、とかく既存事業サイドから「これをしてくれないか」といった話が来ますが、それに一個一個対応していると、我々がしたいことが絶対できない。そう思ったので、いったんきっちり線引きしました。

 二つ目は、「起業家を目指そう。起業家のマインドを持って仕事をしよう」。これは、起業家とは何かといったことを探るところからスタートしました。

 三つ目は、「フラットな組織にしよう」。例えば、私を「所長」と呼ぶのを禁止して「宇野さん」と呼んでもらう、といった立場の垣根をなくすことです。

 具体的な新規事業のテーマの立ち上げ方については、何が正解か私もよくわかりません。そのため、まずは、何か「困り事」を思い付いたら、速攻で声を上げる。これは、自分や周りの人の困り事、社会課題といわれるもの、何でもいいです。周りに困り事を話してみて共感を得られたら、とりあえずそれを掘り下げてみようということで、一つのテーマがスタートします。

 イノベーションラボの他に、ライオンでは新規事業の創出の仕組みとして、「NOIL」(ノイル)という社内ビジネスコンテストや、社内で部所横断的に進めている新規プロジェクトがあります。

 そこでのアイデアが、ビジネスを事業化するための「ビジネス開発センター」の各組織で採択されると、ビジネス創出のための支援を受けられます。

 もし新事業として独立するなら、新たな独立事業体をつくって今の組織から出ていくことになります。自らが成功するとイノベーションラボから卒業するという仕組みなので、非常に流動性の高い組織となります。立ち上げて5年で私も別の部所にいますし、今は最初のメンバーが1人もいません。

 イノベーションラボを運営する上で、まずは私が楽しめば、それがメンバーにも広がっていくだろうという思いで、楽しむことを心がけて仕事をしてきました。

 そうはいっても、つらいこともいっぱいあります。自分たちだけでは絶対できない仕事をするため、いろいろな人たちと協創することになりますが、うまくいかないことも起こります。そのときは、みんなそれぞれの立場や役割に応じて、「それぞれの正義があるよね」と自分に言い聞かせて、メンバーとも話しながら仕事を進めていきました。

 最初からうまくいくことはあり得ません。とにかく失敗ばかりですが、とりあえずやってみることが大事です。もし失敗したら、それをきちんと伝えて、すぐに方法を変えてチャレンジしてみる。そうすれば、そのうち必ずゴールに行き着くと思います。