東証プライム上場の製造用機械大手S社は、IRジャパンにコーポレートガバナンス改善やESG評価分析などのコンサルを依頼していた。

 自動車部品のT社も、アクティビストが株式を保有しており、プロキシーアドバイザーをIRジャパンが担っていた。

 半導体大手N社では、中期経営計画の策定を支援。化学・化成品のE社もプロキシーアドバイザーなどで5000万円を超える取引があった。

 有事対応を得意とするIRジャパンの顧客情報は、インサイダーの宝庫である。アクティビストによるキャンペーンや、上場会社による株価向上の取り組みの公表といったイベントが期待できる。IRジャパン社内のインサイダー情報を漏らした疑いの栗尾氏が、こうした顧客情報を漏らしていたとしても不思議ではない。

 こうした他社株インサイダー取引は、情報受領者の摘発なしには立件は難しい。だが現時点の逮捕者は栗尾氏のみだ。さらなる逮捕者が出るか否かが二つ目のポイントだ。

 そして三つ目が、今後の公判などで明かされる動機である。

 栗尾氏は、IRジャパンが11年にジャスダック上場した際、主幹事証券会社だった野村證券で法人担当部長職にあった。そこからの縁で13年に副社長待遇でIRジャパンに入社した。

 野村證券でさまざまなノウハウを培った栗尾氏が入社したことで、IRジャパンは飛躍する。14年1月に投資銀行部が立ち上げられ、M&Aや経営統合などのファイナンシャルアドバイザリー業務を強化。優秀な野村證券OBを続々引き入れ、コンサルの質を向上させた。

 栗尾氏が入社当時のIRジャパンの時価総額は100億円台だったが、投資銀行ビジネスで巨額フィーをあげ、ピーク時には3000億円にまで株価が上昇した。

 IRジャパンの売り上げ拡大と株価上昇で、最も恩恵を受けたのは同社社長の寺下史郎氏である。寺下氏はIRジャパン株式を50%超保有しており、保有時価総額は1000億円を超える「ビリオネア」となった。また、寺下氏には巨額配当金が支払われており、1億5000万円の役員報酬と併せると一昨年の収入は10億円近い。

 一方、栗尾氏が得ている報酬は数千万円程度と、同じ代表取締役であるにもかかわらず雲泥の差である。また、ここ数年は経費の使い過ぎを社内で問題視されるなど、肩身の狭い思いをしていたようだ。

 こうした社内での冷遇や報酬面での不満が、犯行に走らせた動機なのか――。全容解明に向けた特捜部の力量が試される。