アルムナイは会社の「顔」
企業側もサポートするほど得をする

 二つ目に、退職者の中に成功者が多いことはその会社にとっても重要だということです。ソニーやリクルート、アクセンチュアはその退職者の評判が高いことで、新卒や中途の採用において競合する他社よりも有利な状況にあります。

 もし仮に、メガバンクを退職した社員たちが新しい職場で「使えない」などという評判が立ってしまうとしたら、それはそのまま銀行の評判に跳ね返ってくることは明らかでしょう。

 そう考えたら、新しくアルムナイネットワークを作り始めた会社こそ、その構築やサポートに相応の力を入れるべきなのです。少なくともネットワークというものは、自走し始めるまではものすごく大きなエネルギーを必要とするものなのですから。

競合からの出戻り人材は
企業にとってイノベーションの特効薬になる

 そして三つ目に、カムバック人材は会社にとってさらに使える人材だということです。

 別に他社の企業秘密を知っているからということではありません。

 単純にゴールドマン・サックスからみずほ銀行に戻ってくる人材や、テスラからトヨタ、グーグルからソニー、TSMCからNECに戻ってきた人材をイメージしてみればわかります。

 みずほ銀行の仕組みを知ったうえで、違う仕組みを持つ外資系金融機関で何年か働き、そのうえでまた戻ってくる人材はそもそも有能な人材だというだけでなく、企業にイノベーションをもたらしてくれる人材です。

 これはメガバンクだけの話ではありません。中国、韓国、台湾、そして欧米などまったく違う仕組みをもった競合企業と戦わなければならないという点では金融業界も製造業もIT業界も環境は同じです。そういった外部を知るカムバック人材が、まったく違う他業界からの転職者よりも、重要な人材であることは間違いないでしょう。

 だとしたら問題は「受け入れるかどうか」ではなく、「現状、10人ぐらいしかカムバック人材がいない状況を、いかに速いスピードで年間数十人規模に拡大できるか」が課題のはずです。

 そうなるためにはどうすればいいでしょうか?

 要点はシンプルです。アルムナイネットワークが強固になればいいのです。日本企業は令和に入り、もはや昭和のようなよそ者意識や裏切り者意識は薄れてきたとは思います。

 ただ、企業風土に基づく意識というものはそう簡単に変わるものではないことも事実。それを考えるとアルムナイネットワークの拡充は、人為的に力を入れていかなければならない重要経営課題だと考えるべきでしょう。

 メガバンクを筆頭に第2次アルムナイブームが来れば、転職時代を生きる私たち個人にとっても「おいしい話」になるかもしれません。