関係人口を創出する
「おてつたび」の取り組み
JR呉線や瀬戸内海航路で結ばれる三市は、古くから文化圏、経済圏の強い結びつきがある。いずれの地域も豊かな自然環境と気候を生かした果物などの農業が盛んだが、人口減少・高齢化で担い手不足が顕在化しており、地域コミュニティの活力低下という共通の課題がある。
おのおのが問題意識を持って、時に協力しつつ取り組みを進めてきたが、行政が旗を振るだけでは効果は限定的であり、熱意ある担当者がいても、異動で担当を外れれば取り組みが下火になるなど、持続性も欠けていた。
地域の課題は外部から見ればビジネスチャンスになるが、人手とノウハウが不足する自治体に対応する余力はなく、地域側にも外部の企業が乗り込んでくることへの警戒感があった。
そこで地域に根差した「ローカル大企業」であるJRがハブとなって地方に興味を持つ外部企業を引き込み、三市一体で関係人口の創出に取り組もうというのが協定の目的だ。
都市と地方をつなぐ仕掛けとなるのが、人と事業者をマッチングする「シェアリングサービス」だ。今回、プロジェクトに参加するのが、2017年設立の「JOINS」と2018年設立の「おてつたび」という、二つのベンチャー企業だ。
JOINSは地方企業に特化して、リモートワークを前提とした副業・兼業を紹介する人材シェアリングサービスだ。地方で不足しがちなWebやIT技術者を供給して地域経済の活性化を図る。
関係性は深いが規模は限定的な副業に対し、より広い人々と緩やかな関係を築こうというアプローチが「人手不足に悩む地方」と「知らない地域を旅したい人」を結びつける、おてつたびだ。
おてつたびは「お手伝い」と「旅」を掛け合わせた言葉で、知らない地域に行って魅力を発見したいという人と、人手不足に悩む地方の企業・個人事業主をマッチングする。
「お手伝い」だけでは単なる住み込みアルバイトで終わってしまうので、仕事の合間に観光や地元民との交流など、1泊2泊では体験できない「旅」の要素を加え、終わった後も交流が続く関係人口を創出する。
おてつたびは2022年頃から、さまざまな媒体に取り上げられ、同社によれば今年5月時点の登録者数は3万8000人以上、登録事業者は1000を超えており、大型連休前は募集件数が100件以上にもなる。
せとうちファンプロジェクトでは2021年以降、竹原市の瀬戸内醸造所、ブドウ農家、尾道市のかんきつ農家、三原市のモモ農家などがおてつたびを受け入れた。
農業では種付け、収穫など農繁期に作業量が集中し、一時的な人手不足が生じる。農家が単独で短期求人するのは金銭的にも手間としてもハードルが高い。多くは家族や親戚の手伝いでかろうじて成り立っているが、それも高齢化で限界を迎えつつあることから、地方や農業に興味のある若者に担ってもらおうというのである。
もっとも瀬戸内三市が2年強で受け入れたおてつたびは約60人。これだけで問題解決できるほど甘い話ではない。一過性ではない効果は出ているのか。広島県竹原市でブドウを栽培する神田精果園を訪ね、おてつたび受け入れの狙いと効果を聞いてみた。