おてつたび参加者たちの
それぞれの目的

 明治8年創業の神田精果園は、広島県の現存するブドウ農家の中で最も歴史を持ち、60種類以上もの品種を生産する国内でも珍しいブドウ園でもある。

 おてつたびに参加したのは3人。大学生の石川楓花さん、加藤風花さん、イラストレーターの臼井俊介さんだ。日程は5月8日から16日までの8日間(うち休日3日)で、訪れた12日はブドウの実を大きく甘くするために余分な葉を切り、枝の向きを整える「誘引」と呼ばれる作業を手伝っていた。

 石川さんは去年、テレビでおてつたびを知り「いろいろな体験ができて面白そう」と興味を持った。早速、登録して参加してみると、終了後も農家や他の参加者との交流が続くなど、新たな関係が生まれることが楽しくなり、今回が4回目の参加だ。

 加藤さんは今回がはじめての参加だ。元々農業に興味があったが、個人だとなかなか関わる機会がない。無報酬かつ重労働の農業インターンに参加したこともあるが、そこで出会った人からおてつたびを教えてもらい、申し込んだという。

 臼井さんはさまざまな媒体でイラストや漫画を描いているイラストレーターだ。色々な仕事、体験を創作活動の糧にするとともに、いつかおてつたび経験を絵本にまとめたいと考えており、今回が7日目の参加となるヘビーユーザーだ。

 それぞれおてつたびとの接点や目標は異なるが、共通しているのは、当初から竹原市を目的地にしていたのではなく、日程やエリア、業種などの条件から、たまたま選んだのが竹原市であり神田精果園だったということだ。

 実際、おてつたびが参加者に対して行ったアンケートによれば、滞在地域のことを事前に知らなかったという人が47.7%、初めて訪れたという人が77.5%だが、滞在後は24.8%が1年以内、64.3%がいずれ滞在地域に再訪したいと答えており、縁結びとしては相当の効果を発揮している。新たな出会いは偶然から生まれるものだが、移住だとそうはいかない。

 一般的に関係人口は「地域との関わり」と「地域への関心」を二つの軸として、交流人口から定住人口へステップアップすると整理されており、自治体も最終的には移住に繋げたいというのが本音だ。

 だが、人間の可処分時間、可処分所得が有限である以上、各自治体が関係性の独占を狙えば結局は限られたリソースの争奪戦になってしまう。関係人口はあくまでも「観光以上、移住未満」の緩やかな関係性であり、複数の地域との関係構築を理想とするものでなくては持続性と広がりに欠けるだろう。