コンビニの外国人店員に
銀行窓口が学ぶべきこと

 もちろん外国人にとって母国に帰る際、日本で滞在している時に使っていた口座は不要となる。さらに言えば、帰国時に預金を下ろすのは当然だ。もしかしたら将来、またいつか日本に来るかも知れないから、苦労して作った銀行口座は残しておこうと考える者もいるが、少しでも金の足しになればと口座を売ってしまう人がいることは、残念だがあり得ることだ。

 悪いこととはわかっていても、高値で買い取ってくれる闇市場があるから、国内法でいくら処罰をすると警告しても無くなることはない。買い取られた口座は振り込め詐欺や投資詐欺などの受け皿、つまり犯罪収益口座として使われる。

 銀行や警察が察知し口座凍結されるまでの間に、犯罪グループは買い取った口座を使い、騙し取った金を受け取っている。銀行は日夜モニタリングし、不自然な資金の流れはないか調べているものの、いくら口座を凍結しても、モグラ叩きのように次から次へと増え続けるばかり。したがって、このような口座への対応も事務的にならざるを得なくなっているのも本音だ。

 世界に展開している投資詐欺グループの摘発に向け私が奮闘した内容は、拙著「メガバンク銀行ぐだぐだ日記」に記してあるので、ぜひ読んでいただきたい。決して、外国人を目の敵にしているわけではない。一部の不届き者のおかげで、誠実な外国人まで損をしてしまうことこそがおかしいのだ。

 口座を売却し犯罪収益口座として使われてしまった外国人は、犯罪収益移転防止法違反にあたり、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されるほか、最悪の場合入国禁止となる。もう、日本に入国できなくなるのだ。安易に口座を売ってしまわないように、留学生を受け入れる学校や、外国人労働者を雇用する企業が、しっかり指導していく必要があろう。

 また、我々金融機関は、国際テロや犯罪者への資金供与を断つという使命に最優先で取り組まなければならない。監督官庁である金融庁も、強固な対策を講ずるべきだと強く尻をたたかれ続けている。

 犯罪収益口座の件は、日本に限ったことではない。一方で、日本のみならず世界各国は、外国人労働者の力を借りないと人手不足を解決できなくなっている。効率性だけを重視し、外国人の口座を作らせないといった後ろ向きな対応をしている場合ではない。我が行では、日本語が分からない外国人が利用しやすいように、インターネットバンキングやATMの画面には英語表記が加わっている。

 外国人技能実習生の方々も、支払われる賃金は基本的に給与振り込みであろう。したがって銀行口座が必要となるはずなのだが、口座を作るためにはこのように高いハードルがある。しかし、彼らがスムーズに口座を開設できるよう、あらゆる銀行は対応を怠ってはならないはずだ。

書影『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』(三五館シンシャ)『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』(三五館シンシャ)
目黒冬弥 著

 外国人を含めた全てのお客が、気持ちよく利用できる窓口。誠実な人間が損をし、悲しみに暮れるような社会ではいけない。そのために、今の自分ができることを一つ一つやろうと思う。断ることは簡単だ。そんなものは数秒で終わるのだから。やろうと思えばできることを、なんとかやって差し上げる。そんな当たり前のことを、多くの窓口担当は忘れてしまっている。それが自分の評価につながるとかつながらないとか、そんなことはどうでもいいのだ。

 コンビニエンスストアを訪れれば、外国籍の店員さんが笑顔の対応を心掛けているではないか。これこそが窓口の見習うべき姿だ。時には、たどたどしい日本語で「スマホアプリからどのクーポンを使うとトクになる」とまで教えてくれる。私にとっては、まさに感動体験である。少なくとも、同じレベルで案内できる者は、私の支店では見当たらない。恥ずかしいものだ。

 この四半世紀、私はこの銀行でつらいことも苦しいことも多々経験した。今日もこの銀行に感謝しながら、懸命に働いている。

(現役行員 目黒冬弥)