AIと人間は「共進化」する
パートナーを目指すべき

「池谷脳AI融合プロジェクト」の4テーマはいずれも、まだネズミなどの動物実験の段階だが、壮大で夢のある研究だ。ただし、「脳との連結」に限らず、AIの高度な能力を人間活動に取り入れることは、悪用の危険性や、「AIに人間が支配される」懸念と背中合わせであるのは確かだ。しかしながら、少なくとも後者の懸念について、著者の紺野氏は「使い方さえ間違えなければ、人類は今よりもずっと幸せになることができる」と述べている。

 なぜなら、AIの判断を「命令」と取るか、「提案」と取るかは、人間次第だからだ。AIは、人間の脳とつながることで、本人自身よりも深いレベルまで、その人のことを理解する可能性がある。そして、その学習に基づき、判断や判定をアウトプットする。だが、そのアウトプットに人間が無条件で従う必要はない。

 ネット通販サイト「Amazon.com」などのレコメンドと同じだ。あくまで「提案」として参考にするだけでいい。最終的な判断は人間が自分の頭を使って下す。要は、AIを、自分の能力拡張を助けてくれる、あるいは適切なアドバイスをくれる良きパートナーと扱えばいいのだ。

 この論点について、本書では「共進化」という言葉が使われている。

 これまでも人類は、言葉や文字、電気やインターネットなど、さまざまな「道具」を発明することで、自分たちの生活を便利にするだけでなく、脳の機能を進化させてきた。言葉や文字が存在しなかった昔には、人間の脳にそれらを操る機能はなかった。インターネットも同様だ。ウェブ検索などに使われる脳の機能は、明らかに以前とは違うものだろう。太古から私たち人類は、自らが開発したさまざまな「道具」と、共進化してきたのだ。

 本書によると、2017年に囲碁のAI「AlphaGo」が、当時の世界最強棋士を打ち破ったことが話題になったが、現在の同棋士の強さは、当時のAlphaGoと同レベルになっているという。棋士たちはトレーニングのパートナーとしてAIをフル活用しており、それに伴って棋力も進化したからだ。

 まだ誤答が少なくないChatGPTにしても、こちらが問い直すなどして会話を繰り返していくことによって学習し、より正確なアウトプットができるようになっていく。

 これも共進化にほかならない。今後、GPT-4が普及し、GPT-5、GPT-6と「成長」していくのを、パートナーとして楽しみに待ちたいと思う。

 本書で、AIのことをより深く理解し、互いにパートナーとなる道を探ってみてはいかがだろうか。

(情報工場チーフ・エディター 吉川清史)

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