■Case2:オフィスでの会議に参加してもらいたい

 一方で、社員が希望すれば、引き続き在宅勤務もOKとする企業も多いようです。ただ、在宅勤務がすっかり定着してしまったことで、「オフィスに出社してほしい時があっても、社員を集めるのが一苦労」という声を聞きます。

 例えば、コロナがひと段落したのを機に、久々に顔を合わせて今後の戦略を決める大事な会議を行いたいと思っても、それだけのためにオフィスに行くのは億劫だな…と感じる人が多いのだそう。「大事な会議を行うので、皆さん出社してください!」と伝えたところで、「リモートでも十分話し合いは可能」などと返されてしまいそうです。

 こんなときは、このように伝えてみてください。

「この会議ではお弁当が出ます。生姜焼き弁当か銀ダラ西京焼き弁当、どちらがいいですか?」

 これは伝え方の技術、「選択の自由」を使った伝え方です。人は「AかBどちらがいいですか?」と聞かれると、思わずどちらかを選びたくなるものなのです。

 この場合、「……じゃあ生姜焼きかな」とどちらかを選んだ瞬間に、出社することも確定します。そして、「自分の意思でお弁当を選んだ」ことで、なかなかオフィスに集まろうとしなかったメンバーも、気持ちよく集まってくれるようになるのです。

 働き方が多様化している今、人を1つの場所に集めたり、同じ方向を向いてもらったりすることが難しくなっています。かじ取りが難しい場面でも、伝え方の技術を活用すればスムーズに事が運びやすくなるでしょう。

 在宅勤務にかかわる「ノー」を「イエス」に変える伝え方を2つご紹介しましたが、ビジネスにおいて「ノーと言われる可能性が高いが、何とかイエスと言ってほしい」というシーンは数多くあります。カドを立てることなく、相手にイエスをもらえる確率を上げる伝え方の事例を、もう少しご紹介しましょう。

■Case3:クライアントの無理な値下げ要請を断りたい

 ビジネスにおいては、言葉の選び方に迷うシーンが意外に多いものです。例えば、クライアントから「値下げして」と要請されたけれど、これ以上はどうしても難しい。そんなとき、あなたならどのように伝えますか?

 大事なクライアントであろうが、これ以上の値下げは絶対に無理! という場合は、素直に「これ以上の値下げはどうしても無理なんです」と伝えたくなると思います。ただ、これで相手が素直に納得するとは思えません。場合によっては、「じゃあ取り引きは停止だね」と言われてしまう恐れもあります。

 こんなときは、ぜひこのように伝えてみてください。

「加藤さんのお願いだけはすべてお受けしたいのですが、これ以上はどうしても難しいんです。値下げできない分は、私の情熱と気合いで還元します!」

 ここでは「あなた限定」という伝え方の技術を使っています。人は「あなただけは」と特別扱いされると嬉しくなり、相手の要望に応えたいという気持ちになりやすいのです。この場合も、「本当は値下げしてほしいけれど、今回はあきらめようか」と思ってもらいやすくなります。

 実は、言っていることは「値下げは無理です」と同じ内容なのですが、伝え方を少し工夫するだけで相手の印象がガラリと変わり、信頼関係を損ねることもなくなります。ノーをイエスに変え、人間関係をより良くするためにも、伝え方の技術をうまく活用してほしいですね。