■Case4:早退するので、誰かに仕事の続きをお願いしたい
育児をしながら働いていると、子どもの都合でどうしても早退しなければならないことがあります。学校の行事など、あらかじめわかっていて準備しておける場合はいいのですが、急な発熱などの場合は、仕事の途中で急きょ早退を余儀なくされる場合もあるでしょう。
そんなとき、「すみません。早退しなければならないので、この仕事の続きをお願いできないでしょうか?」などと周囲にお願いするケースが多いのではないかと思います。もちろん仕方のないことなのですが、頼まれた側としては「なんで私があなたの仕事を引き受けなければならないの…?」と少なからず不満に思うこともあるでしょう。子どもの発熱は不可抗力であると頭ではわかっていても、自分の負担ばかりが増えることに納得のいかない人もいると思います。
では、何と言えばいいのか。例えばこのように伝えてみてください。
◎「いつもフォローしてくれてありがとうございます。今日の借りは必ず倍にして返すので、ヨウコさんが有給休暇を取りたいときは私に任せてください!」
まず「ありがとう」と言うのは、伝え方の技術「感謝」を使った伝え方です。人は感謝されると、嬉しさを感じ相手との距離がぐっと縮まります。その後にお願いごとをされると断りづらくなるだけでなく、「引き受けてもいいか!」と前向きに受け止めてもらいやすくなります。
続く「今日の借りは倍にして返す」は、「相手の好きなこと」という技術を用いています。倍にして返してくれるというのは、相手にとって嬉しいことです。それならばやってもいいかも…と好意的に受け止められるようになります。
さらに「有給休暇を取るときは任せて!」と具体的に伝えることで、「私もまとまった休暇を取ることがあるかもしれないから、今日のところはやっておいてあげよう」と前向きに臨んでくれやすくなるのです。
■Case5:商談の日程をそろそろ決めたい
足しげく通って着実に信頼関係を築いてきたクライアント企業。そろそろ商談の機会をもらいたいけれど、担当者にうまくかわされてしまい、なかなか決め切れない…という悩みを抱える若手営業もいるようです。
先方担当者は毎日忙しそうで、商談の話を切り出しても何となくはぐらかされてしまう。こんなとき、「そろそろ商談の機会をいただきたいので、都合のいい日程を教えてもらえませんか?」と伝えたくなりますが、このようにズバリ言ってしまうと「こちらからまた連絡するよ」などとかわされ、結局話が進まない…なんてことになりそうです。
これも、伝え方ひとつで状況をガラリと変えることができます。
◎「システム導入により御社の生産性を向上させるため、佐藤さんと一緒に戦略を練りたいと思っています。今度の木曜日か金曜日でしたら、どちらのほうがご都合よろしいですか?」
ここではまず、伝え方の技術「チームワーク化」を使っています。人は「一緒に〇〇しよう」と言われると嬉しさを覚え、やってもいいかなと思いやすくなります。
例えば同僚に「一緒にコーヒー買いに行かない?」と誘われて、特に飲みたくもなかったのに買いに行った経験はありませんか?「一緒に」という言葉には、人を巻き込む力があるのです。
そしてもう一つ、「選択の自由」という技術も使っています。人はAかBかどちらがいいかと問われると、どちらかを選びたくなるものです。この場合も、「じゃあ木曜日のほうがいいかな」と決めてもらいやすくなります。
この「選択の自由」は、どちらが選ばれたとしてもこちらの都合がいい選択肢を挙げることがポイント。「木曜日と金曜日」は、どちらを選んでもらってもOKな選択肢。こちらとしては、商談の機会がもらえればそれでいいわけです。
ちなみに、「選択の自由」でやってしまいがちな失敗例は、「商談の日程を今日決めていただくか、次回にするか、どちらにしますか」というもの。「次回」という選んでほしくない選択肢を入れてしまっては、まったく意味がありません。多くの場合、「じゃあ次回ね」と先延ばしされて終わってしまうので要注意です。
ここでご紹介したような、相手に言いづらいこと、ノーと返されてしまいそうなことを伝える際には、伝え方の技術が力を発揮します。もちろん、100%イエスをもらえるわけではありませんが、ノーの確率を下げ、イエスの可能性をぐんと高めることができます。
「相手の好きなこと」や「感謝」などで相手に好印象を与えつつ、「チームワーク化」で巻き込んだり、「選択の自由」で自然に選ばせたりすることで、相手が「気づいたらイエスと言っていた」という状況が作れるはずです。ぜひ技術をうまく組み合わせながら、さまざまな伝え方を試してみてください。
コピーライター/作詞家/上智大学非常勤講師
新入社員時代、もともと伝えることが得意でなかったにもかかわらず、コピーライターとして配属され苦しむ。連日、書いても書いても全てボツ。当時つけられたあだ名は「最もエコでないコピーライター」。ストレスにより1日3個プリンを食べる日々をすごし、激太りする。それでもプリンをやめられなかったのは、世の中で唯一、じぶんに甘かったのはプリンだったから。あるとき、伝え方には技術があることを発見。そこから伝え方だけでなく、人生ががらりと変わる。本書はその体験と、発見した技術を赤裸裸に綴ったもの。本業の広告制作では、カンヌ国際広告祭でゴールド賞を含む3年連続受賞、など国内外55のアワードに入選入賞。企業講演、学校のボランティア講演、あわせて年間70回以上。郷ひろみ・Chemistryなどの作詞家として、アルバム・オリコン1位を2度獲得。「世界一受けたい授業」「助けて!きわめびと」などテレビ出演多数。株式会社ウゴカス代表取締役。伝えベタだった自分を変えた「伝え方の技術」をシェアすることで、「日本人のコミュニケーション能力のベースアップ」を志す。
佐々木圭一公式サイト:www.ugokasu.co.jp
Twitter:@keiichisasaki