航空自衛隊から「航空宇宙自衛隊」へ改称
機能強化で「制宙権確保」が任務になる未来

 一方、これら中国などの脅威に対抗するために、日本の自衛隊はどのように宇宙での防衛を行おうとしているのか。

 日本ではかつて、宇宙の防衛利用に大きな制約を掛けていた。1969年、衆議院において「我が国における宇宙の開発及び利用に係る諸活動は、平和の目的に限る」との決議がなされている。この決議により「自衛隊のための宇宙開発を行ってはならない」との解釈がなされた。そのため、自衛隊は気象衛星や通信衛星などの人工衛星を保有できず、自衛隊以外の組織が保有する人工衛星を利用することのみが許された。

 その後、2003年には日本独自の偵察衛星である情報収集衛星の運用が開始されたが、これは防衛省ではなく内閣官房が所管している。自衛隊ではなく、あくまで政府の衛星という位置付けだ。

 08年に転機が訪れた。宇宙基本法が施行されたのだ。この法律には「宇宙の平和利用の定義は国際条約と日本国憲法に従う」と明記されている。この定義であれば他の安全保障の解釈と同様、侵略を目的とせず専守防衛の範疇であれば、自衛隊は独自の衛星保有が可能となったのだ。

 とはいえ、防衛に特化した衛星をすぐに開発できるというものでもない。まずは17年から、自衛隊は独自の通信衛星「きらめき」の運用を開始した。通信衛星は技術的に民生用でも防衛用でも大差がなく、新規開発要素がないため、従来から自衛隊が通信衛星サービスを利用していたスカパーJSATホールディングスにPFI*方式で委託している。

 これに加えて、自衛隊は独自の防衛目的衛星の検討や研究を進めてきた。

 組織面では20年5月、航空自衛隊に宇宙作戦隊を発足させた。これが22年3月には組織規模をさらに拡大し、四つの隊と群本部からなる宇宙作戦群となった。ロシア・ウクライナ戦争を契機として防衛費の大幅増となったことも追い風になったが、自衛隊の宇宙分野での能力拡大自体は、宇宙基本法制定以来の既定路線だった。宇宙作戦群は地上のレーダーで同盟国やJAXA(宇宙航空研究開発機構)などと協力して宇宙空間を監視することを任務としている。

 加えて令和5年度(23年度)予算には、宇宙状況把握(SSA)システムの製造費が計上された。これは他国の衛星に接近して写真撮影を行うための専用衛星だ。明らかに前述の中国の攻撃衛星に対する対抗手段とみていい。

 防衛省はさらに将来に向け、衛星の高機動化や燃料補給の技術開発も掲げている。今後の情勢によっては、他国の衛星を攻撃する能力も検討されるだろう。そうなれば日本版宇宙戦闘機の誕生も絵空事ではない。

 これらの先にあるのは、地上での防衛で優位に立つには「制海権」「制空権」に加え、「制宙権」も必要になるという未来だ。政府が数年内に航空自衛隊を航空宇宙自衛隊に改称する方針を示したことからも、「制宙権確保」が自衛隊の任務の柱に加わると見込まれていることが分かる。

 航空宇宙自衛隊というSF的な名称には自衛隊内部でも戸惑いがあるようだが、かつて航空機が戦争に使われ始めた時代には「空軍」という名前も空想的に思えたことだろう。同じことが宇宙でも起こっている。

 もはや宇宙戦争は現実のものとなりつつあるのだ。

*PFI プライベート・ファイナンス・イニシアティブ 公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力および技術的能力を活用して行う手法

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