予想外の事態から新たな価値を生み出すには
第3の「セレンディピティを育むカルチャー」については、まず「セレンディピティ(Serendipity)」の意味を説明する必要があるだろう。これは、18世紀のイギリスの小説家ホレス・ウォルポールによる造語とされ、もともとは「幸運な偶然の発見」を意味する言葉だった。それが最近になって、創造性、イノベーションと密接につながった言葉として使われるようになってきている。点と点をつなぎ、偶然からより多くの価値を生み出して活用する行動様式といった意味合いで、予想外の事態に対処する能力を高めるという文脈でも使われる。
セレンディピティで重要となるのは、実現した価値(洞察、イノベーション、新しい手法、問題への新たな解決策)はもともと期待されていたものでも、誰かが探していたものでもなく(少なくとも探していた形ではない)、完全に予期せぬものだということだ。
セレンディピティにおいてもう一つ重要なのが、偶然の発見を理解して、使いこなす能力だ。それは複数の出来事、観察したこと、断片的情報の間に、(意外な)価値のあるつながりを発見し、クリエイティブに融合させていく能力を指す。強力な影響原因に気づき、つかみ、活用する能力を伸ばすことが求められるのである。
世界はいま、さまざまな政治的、社会的、環境的変化に直面しており、私たちの未来の大部分を決めるのは予想外の要因である。急速に不確実に変化する世界において、次に何が起こるか、どのような人材やリソースが必要になるかはわからない。だからこそ個人として、群れとして、そして組織として、予想外の事態に対処する方法を手に入れなければならない。
そして、セレンディピティは、まさに組織カルチャーを進化させていく術として有効なのである。これからの組織は予想外の出来事に注目し、それを好意的に受け止める必要がある。セレンディピティを経験した仲間を評価し、普通でないことや出来事に関心を持って追求して構わないというカルチャーを醸成することで、学習を繰り返す群れの土台が築かれるのである。
書籍『パワー・オブ・チェンジ』では、こうした組織が育むべきケイパビリティに加えて、経営チームが磨くべきセンスについても、事例を交えて詳細に解説しているので、ぜひ参考にしてほしい。