「人が財産」の企業ほどカルチャーフィットを重視
──逆の見方をすれば、こだわりや個性が強い会社のカルチャーに合う人を採用できれば、お互いハッピーになれそうです。
佐宗 そういうことですね。あるいは、その会社に必要な知識や経験やスキルを持った人だけを採用したいということであれば、スペック採用です。優秀な人の中でも、カルチャーフィットする人だけを採用する基準に変えるわけですね。スタートアップの採用とかでは、そういう動きをしている会社が多い印象ですし、それはおそらく正しいと思います。この本でも紹介した「カルチャーデック」で自社の組織文化を可視化するのもいいですね。メルカリのように、カルチャーデックを人材採用に活用する会社が出てきているのも、自然な流れだと思います。
──面接までは何の問題もなく採用した優秀な人が、入社してすぐ辞めてしまうのも、その人の問題というよりカルチャーが合わなかったことが原因かもしれませんね。
佐宗 その可能性は高いでしょうね。特にコロナ禍以降、リモートワークが増えたので、その会社のバイブスに合ってない人をむりやり順応させるのはすごく大変です。そのため、採用する人のペース、雰囲気、価値観が、その会社に合っているかどうかの見極めがより重視されるようになっています。「理念経営2.0」を実践している会社の経営陣も、「結局は人だ」とみなさん言っています。その会社にどんな人がいるかがすべてなので、理念経営2.0を実践しようとする際の一丁目一番地は採用ともいえます。
──「出る杭は打たれる」といわれた日本的な集団主義から、自分の会社に合った杭を集める流れに変わってきているんですね。
佐宗 そう考えると、人の個性なんてまったく求められていなかった時代から、いきなり誰もが個性を求められるようになった時代に変化したギャップは結構ありますよね。スープストックトーキョー社長の松尾真継さんも、採用は本当に重要だから、「劇団員を募集するつもりで採用している」とおっしゃっていました。同社の理念は「世の中の体温をあげる」ですから、社員一人ひとりの表現を通じてお客様の体温を上げていくわけです。表現力がない人は採用できないので、「Soup Stock Tokyo」という劇団に入って表現することを楽しんでくれる劇団員の仲間を採用しているつもりだと。
この松尾さんの話に象徴されているように、人を採用するとき「このポジションの人を何人採用する」というのは、もはや古い発想です。優秀な人材を採用している企業は、「この劇団にどんな人が入ってくるとおもしろいかな?」という順序で発想しているんですよね。それくらいものの見方、考え方のパラダイムが違うわけです。「理念経営2.0」の会社は、後者の発想で採用を考えているところが多いです。