イノベーションを生み出す企業の共通点
──そこまで人を信じて、自分自身も、会社も、外に向かって開いていける経営者に共通する点は何かありますか。
佐宗 やっぱり「人からしか新しいものは生まれない」っていうことを、わかっているんですよね。そういう経営者は、既存の事業に人を当てはめるオペレーション型の発想ではなく、いい人を採用し、その人に新しいアイデアや事業などの価値を生んでもらうイノベーション型の発想をします。企業価値も、有形資産よりも無形資産との相関性が高くなっている流れもありますし、イノベーション型の人が生むアイデアや知恵こそが価値の源泉であるという流れになってきていますから、そういう経営者はこれからもっと増えていくはずです。
僕がP&Gやソニーで働いていた頃は、もっと多くの人がクリエイティブになって新しいアイデアを考えられるようになってほしいと思って、デザイン思考を広める本も出しました。そのあと独立した自分がなぜ今『理念経営2.0』という本を出したのかというと、いろんな人の価値創造が現代の経営の「当たり前」になったからです。イノベーション部門の人たちだけじゃなくて、会社全体で価値創造をやらなきゃいけなくなっている。そのためには、価値創造の方向感覚としてのビジョン・パーパスや、それを担う人を生かしていくバリューとカルチャー、そして、価値創造における優先順位を決めるミッションといった企業理念の体系が経営資源として不可欠になってくるんです。
──やらなきゃいけないと頭ではわかっているけれど、モヤモヤして何から手をつければいいかわからないと途方に暮れている経営者も多いそうですね。
佐宗 モヤモヤしている場合は、ひとまず本の前半にある「企業理念の作り方」を参考にしていただければと思います。ここでは、「ビジョン・バリュー・ミッション/パーパス」などの企業理念がどういうもので、それぞれをどう作っていけばいいかを語っています。
一方、後半では「企業理念の使い方」を語っていて、これらをどうやって会社の「ナラティブ、ヒストリー、カルチャー」につないでいくかを説明しています。これからの時代においては、この両者を往復することが、企業の当たり前の姿になっていくと思っています。
価値創造のベースを「人」に置く考え方は、各社のイノベーション部門やデザイン部門では以前から当たり前でした。僕がいたソニーのクリエイティブセンターでも、一人ひとりのデザイナーこそが価値の源泉でしたから、「この人にはどんな仕事を任せようか?」という人ありきの発想をしていました。でも、これがすでにプロダクトがあり、その仕組みを回していくことが優勢な事業部にいくとまったく違うんです。
一方で、先ほど紹介したスープストックトーキョーのような会社は、僕がソニーで経験していたような人中心のマネジメントが組織全体に浸透している印象があります。それってすごいことですけど、やろうと思えばできるんですよね。書籍のなかで取り上げた丸井グループも、2005年に青井浩社長が就任してから企業理念の見直しに着手し、価値創造型企業への大胆な変革がみごと成功してV字回復を果たしました。
この2つのケースだけ見ても、大企業でもこの転換は可能なのだと思います。そういうチャンスがあることを、この本で多くの人に気づいてもらえるんじゃないかと思っています。
(次回に続く)
※本稿は『理念経営2.0──会社の「理想と戦略」をつなぐ7つのステップ』(ダイヤモンド社)の著者インタビュー・全4回の第3回です。
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