日本経済への不安から
安定志向から成長志向へ
バブル崩壊やリーマン・ショックの後、若手社員の間に安定志向が強まった時期があったが、いまでは高橋さんのように、自分の「成長」を重要視する傾向が強まっていることが読み取れる。
「コロナ禍が収束したとはいえ、日本経済の力強い回復がなかなか期待できそうになく、自分たちの明るい未来を描くことが難しくなっています。それだけに、できるだけ早く成長して力を付けていきたいと思うようになっているのでしょう」と識学の安藤広大社長は分析する。
また、「彼ら若手社員たちの親の働き方の変化も、大きな影響を与えています」と指摘してくれたのが、大手サービス会社の人事部のキャリア担当職に就いている坂上優介さん(仮名)である。
20代前半の若手社員の親の多くは50代だ。肩たたきで関連会社への出向を強いられたり、出向を免れても役職定年で待遇が悪くなったりしながらも我慢しながら働いている。その様子を目の当たりにして、「力を付けて、会社にしがみつくようなことはしたくない」と考えるようになっているというのだ。
転身先は超激務で知られる
コンサルティング職
高橋さんの話に戻ろう。見るからに誠実そうな高橋さんが、勤め先の情報通信会社にさっさと見切りをつけてしまったわけではない。希望だったクライアントと接点を持った仕事をしたい旨を、月に1回の上司との面談で何度も伝えた。
でも、上司の答えはいつも「現在のプロジェクトが終わったら、異動を含めて考えるから」の繰り返しであり、それを実現してくれる確証までは得られなかった。
そうこうするうち、昨年の秋口に大きな転機が訪れる。高橋さんのトレーナーに付いてくれていた入社3年目の先輩社員が退職したのだ。
「とても優秀な先輩で、上司からも評価されていました。しかし、自分の能力をフルに発揮しながら成長できるような仕事を与えてもらえず、処遇が改善されないことに強い不満を持っていたのです。その先輩の生きざまに触れたことが、違う会社で成長機会を自ら獲得することの決意を促してくれました」
そして、転職サイトに登録した高橋さんは、今年の2月に有力コンサルティングファームのコンサルタント職の内定を得る。
論理的な現状分析にはじまり、具体的な施策の立案やプレゼンテーションなど、多岐にわたる高いスキルが求められる上に、コンサルタント同士の競争も激しい世界だ。それでも、クライアントとダイレクトに接することに大きな魅力を感じたのが、転職先として選んだ理由だった。